かねてから、「自宅は賃貸が良いか?」、「自己所有が良いか?」といった議論がありました。不動産業界や金融業界等からすると「自己所有が良い」というポジショントークはある意味、必然で、客観性に欠けるような印象を受けることもありました。不動産業界や建築業界では、物件の建築や販売、金融業界では融資というビジネスチャンスが存在しますから、「自己所有」の主張は、当然とも思えます。
“低金利”というセールストークで住宅ローンによる物件購入の提案が行われるケースも多いようですが、この場合、あくまでも名目金利ベース(見た目の金利)の話であり、実質金利ベース(名目金利-期待インフレ率)では、必ずしも、低い水準と断定できないように思います。
蛇足ですが、名目金利は、我々が目にする金利そのものですが、実質金利は、物価を考慮した金利です。仮に名目金利が1%で低く見えても、期待インフレ率が-1%(要はデフレ)だと、実質金利は、1%-(-1%)=2%ということになります。金利が5%と見た目に高くても、期待インフレ率が4%であれば、実質ベースでは、1%となります。預金や債券に投資する場合や融資を受ける場合でも、名目金利だけでなく、物価を考慮した金利水準も意識したいところですね。為替にも影響しますので、これは別の機会にご紹介したいと思います。
また、ネット上や書籍で、自称専門家の方々の「今は金利が安いのでお得です」というコメントを、拝見することがあります。そもそも、金利は高いか低いかであって、安いか高いではありません。(低金利とは言っても、安金利とは言いませんね)「支払い利息が安い」という表現であれば、まだ、許容できますけどね。
また、「ローンを組んでも月額の返済額は、賃貸よりも低いです」というコメントも、所有した場合の管理費、修繕積立金、固定資産税等が考慮されていないケースも散見します。仮に金利水準が高くても(名目、実質とも)、それ以上に付加価値のある魅力的な不動産であれば、融資を受けて購入を検討すべきかもしれませんが、金利水準が低いだけで、魅力の乏しい不動産をなんとなく購入するのは、不動産投資の観点からしても疑問を感じます。
「賃貸か?」、「自己所有か?」というテーマは、ライフスタイルや個々の方の考え方に依存する部分が大きくなりますが、私なりの独断と独善的な見解を述べたいと思います。
≪不動産を取りまく事実の確認 2021年8月現在≫
・国内の高齢化と人口減少が加速
・首都圏等に人口流入が偏り、地方都市の人口流出が継続
・住宅が供給過剰となっており、地方の中古物件の空室率が特に高くなっている
・転職が一般的になっており、35年の住宅ローンのリスクが顕在化
・気候変動等による災害頻発
・近い将来、団塊の世代からの自宅の相続の大量発生(供給過多)
≪自己所有のメリット≫
・所有することによる満足感
・諸条件を満たせば、住宅取得控除を受けることができる
・条件によっては、ローン返済の資金負担が賃貸と大きく変わらない
・駐車場のコストを負担しなくてもよいケースもある
・団体保険に加入すれば、死亡後の返済の負担が無くなる
≪自己所有のデメリット≫
・(区分所有の場合)管理費、修繕積立金等の負担
・(区分所有の場合)築年数が経つと大規模修繕が必要になる
・(戸建ての場合)自分で修繕計画、そのための資金の確保をしなければならない
・不動産購入時に、登録免許税や不動産取得税、登記費用等のコストがかかる
・将来的な売却のリスク(価格下落、流動性の枯渇)
・固定資産税、都市計画税等の租税公課の負担
・収入が不安定になった際のローン返済の原資
≪賃貸のメリット≫
・生活スタイルの変化による引っ越しが比較的容易
・管理費、修繕積立金等の負担が無い
・固定資産税等の直接的な負担が無い
・多くの物件から自分のニーズにあったものを選べる
・比較的、将来のキャッシュフローが見えやすい
≪賃貸のデメリット≫
・入居時の負担が大きい(仲介手数料、敷金、礼金等)
・高齢者になると賃貸契約を新たに締結することが難しい
・ペットを飼っている場合、入居可物件が少なく、敷金の割り増しも多い
ザックリ、まとめてみると以上のようになります。
前提として、特段の事情が無い限り、≪事実の確認2021≫を踏まえて、言い換えるとマクロ的な視点から今後の判断をする必要があります。結論から申し上げると、人口減少にも関わらず、新築マンション等の物件供給は増えています。国土交通省のデータによれば、2018年の住宅ストック数は約6,200万戸、総世帯数が5,400万世帯とのことです。既にこの時点で、総世帯数を住宅ストック数が上回っています。このデータは、全国ベースのものですから、首都圏などの都市部以外の需給は、更に厳しいことが推測されます。また、実家を相続した場合、その売却に苦慮している話をよく耳にします。それに加えて、今後、団塊世代からの不動産相続が発生し、供給は更に増加することが予想されます。都市部を中心とした、人口流入地域で競争力のある不動産に関しては高い需要が見込まれるものの、人口流出地域の中古物件等の需要は厳しいを言わざるを得ません。
新築物件(マンション、戸建てとも)が魅力的に映るのも当然ですが、通常、販売価格には、関係する企業の利益が含まれています。(販売価格≒実勢価格+関係する企業の利益)
自動車の新車の販売価格も同様ですが、プレミアムがあるケース等を除いて、中古になった瞬間、実勢価格に収斂すると考えた方が良いと思います。また、新築物件であっても、マンション等の場合、築年数が15年程度を越えてくると、「水漏れ」等の発生リスクが高まります。共用部だけであれば、管理組合の負担となる場合もあると思われますが、専有部分の問題となると、負担が生じる場合も少なくありません。暗い話ばかりですが、これらの話を踏まえて、ご自身、ご家族の年齢、ライフスタイル、ライフプラン等を考慮して判断する必要が考えられます。最近の話ですが、知人の5人家族だった方が、住居を移られました。背景は、お子さん達が独立して、ご夫婦だけで暮らすには、スペースが広く無駄が多いとのこと。より利便性の高いコンパクトな住居に移られたようです。
ご両親の相続や介護の問題も考えておく必要があります。ご実家が自己所有で、皆さんと離れた地方にあった場合、相続後、価格が低くても売却せざるを得ない可能性が高くなります。売却自体、大変なケースも少なからずあります。可能であれば、早めに売却し、ご両親を近隣(二世帯住宅含む)に移っていただくという作戦も考えられます。実際に、このような対処をされた知人もいます。ご両親を含めたご家族のコミュニケーションが欠かせませんね。
不動産を購入する場合、最重要視すべきは、「売却の際の流動性(売れるかどうか)」だと思います。将来的に相続が発生した際でも現金化が容易である不動産が一番です。値上がりするか、値下がりするかは、別の話として理解してください。一般的に流動性が高い物件は、比較的、値下がりしにくいと言えるかもしれませんね。(人気があるから流動性が高い)また、築3年から10年程度の中古物件も視野に入れたいところです。需給で価格は変動しますが、新築物件よりは実勢価格に近いという判断からです。ご家族の年齢を考慮し、不動産物件の築年数とのバランスを見ることも必要ですね。また、35年ローンに関しても、ご自身のビジネス環境や見通し等も把握し、余裕のある金額の融資に留めておいた方が良いと思います。理想を言えば、繰り上げ返済で早めに返済を終えたいところです。
需給を考慮すると賃貸物件に関しては、今後はより賃借人(借りる人)に有利な環境になってゆくと思われます。特に地方において、その傾向が顕著になると考えられます。従って、前回のFIREのブログでは、ありませんが、ある程度の金融資産が確保できるまでは、賃貸物件で暮らし、購入を検討する際には、程度の良い中古物件をゆっくり探してみるというアプローチもありですね。その際も、流動性の重視は忘れないでください。
地方では、自動車が生活に欠かせないケースが多くあります。高齢者でも、買い物や病院への通院等で自動車を使わざるを得ない現状です。例えば、地方都市でも、中心部の物件で買い物や病院に徒歩でアプローチできれば、車を手放すことも検討できますね。そのような条件下に物件があれば、一定の流動性(買い手がいる)が期待できるように思います。
人口が減少する国では、不動産が供給されなくても、空室率は上昇します。それは、時間をかけて賃料下落につながり、不動産価格自体にも影響を及ぼします。新築物件に転居される方がいる以上、それ以前に入居されていた物件は一時的とは言え、空室になる訳です。また、そこに入る方がいれば、その前の物件が空室になります。売却したくても、厳しい条件となる可能性も考えられます。欧州のように、数十年も使用できる建物が望まれるところですが、現状は、残念ながら、中古物件のリノベーション市場は、限られた範囲という印象です。良い物件を長い間、大事に使えるような社会になることを祈ってやみません。
今回の結論
自宅としての不動産を購入する際は、将来的な流動性(売却可能か)を意識してください。
次回は、「金融商品と税金のお話」についてコメントしたいと思います。
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