財務、ファイナンスや金融の世界で「リスク」という言葉は、一般的に「標準偏差」のことを言います。「ボラティリティ」という言い方もあります。基本的には、リターンは高い方が好ましく、リスクは小さい方が好ましい世界です。仮に5%の期待リターンの商品があって、リスクがゼロの場合、デフォルト(破綻)が無ければ、5%のリターンは確定という意味合いです。
数学の統計的なお話ですが、
リターンが10%、リスクが5%というファンドがあったとします。この場合、リターンの10%を中心に上下5%の範囲(リスク5%)に約68%がおさまる確率であることを意味します。(1標準偏差とか1シグマと呼ばれます)同様に10%を中心に上下10%の範囲に約95%(2標準偏差(5+5)、2シグマ)、この場合、過去の実績の数値ではありますが、統計的には、0%から20%の間に約95%がおさまる訳ですから、0%を下回り、マイナスのリターンになる確率は、残りの5%の半分、約2.5%となり、約97.5%はプラスのリターンの確率となる訳です。
リスクとリターンを同時に捉える指標として、「シャープ・レシオ」があります。リターンをリスク(標準偏差)で除したものです。前述の通り、リターンは高い方が良く、リスクは小さい方が良いので、シャープ・レシオは高い方が効率的な運用がなされていたとみなされます。運用者(FM)の評価にも使われる指標です。(他には、インフォメーションレシオ、トレイナーレシオ、アルファ等)同じリスクであれば、リターンが高い方が良いわけですし、同じリターンであれば、リスクは小さい方が良いわけです。その二つのバランスを見る指標と思ってください。一応、数値としては、1を超えていることが望ましいと言われていますが、株式と債券は異なりますし、期間や外部環境によっても一概には言えません。また、シャープ・レシオの評価が有効なのは、指標に連動するインデックスファンドではなく、アクティブファンドだということもお伝えしておきます。インデックスファンドの場合は、指標が好調で良い数値であれば、ファンド自体も良い数値に近似するはずであり、FMの評価は、指標との乖離の大きさです。アクティブファンドの場合は、ベンチマークがどうであれ、独自の運用に対して評価がなされる訳であり、よりシビアなものとなります。
具体例ですが、(尚、個別商品を推奨している訳ではありません)
AB・米国成長株投信Dコース(H無) 予想分配金-ファンド詳細|投資信託[モーニングスター] (morningstarjp.com)
該当ファンドの期間ごとのトータルリターン、標準偏差、シャープ・レシオの数値と相対評価の記載があります。当然、期間によって数値は異なりますが、このファンドは、どの期間でもシャープ・レシオが1を大きく上回り、相対評価も高いことがわかります。後述のコスト面では、やや割高な印象もありますが、それを上回るリターンを安定的に獲得できていると判断できると思います。
netWIN GSテクノロジー株式ファンド B(H無)-ファンド詳細|投資信託[モーニングスター] (morningstarjp.com)
こちらのファンドも、長いトラックレコードを持っていますが、どの期間もシャープ・レシオが1を上回り、相対評価も良好です。コストは、割高な部類ですが、獲得できたリターンを考慮すると妥当と判断しても良いと思います。
設定からの実績が長いものの方が、評価はしやすく、新規設定のファンド等は、このような評価はなじみません。一般の投資家の方にとっては、シャープ・レシオを理解できれば十分だと思います。
コスト/リターンという概念は、漠然としたものとして皆さんも感じたことがあるかもしれませんが、一般的なものではありません。実際のところ、期待リターンに対して、見合わないコストの商品が存在します。例えば、証券会社の商品企画の部署に在籍していた際に、運用はヘッジファンド的な商品(代替運用)を提案されました。コストをチェックすると信託報酬が3%程度、販売手数料の上限が5%程度というもので、期待リターンは、私なりに解釈しても2%程度というイメージでした。コストと期待リターンのバランスが悪すぎるという判断で当然、お断りしましたが、現実的に期待リターンとコストのバランスが悪い商品を目にする機会は多いように感じます。
投資信託にも、ザックリした信託報酬(コスト)の相場があり、国内株のインデックスだと、現在、0.3%以下が主流で、国内株アクティブでも、余程、パフォーマンスが良いものでなければ、1.0%程度以下がメインな気がします。海外株でもインデックスで0.3%以下のものも多くなってきている一方、アクティブでは、2.0%を超えるものも少なくありません。単年で1.5%以上、コストが異なると、10年間で15%を超過し、それを運用でカバーするのは容易ではありません。一部のファンドは、それでも超過収益を確保しています。コストが高めのアクティブファンドを否定する気はありませんが、過去の実績を踏まえた上で、投資金額を調整して、インデックスがコア、アクティブがサテライトというように、メリハリを付けたいところですね。
また、投資信託で債券ファンドやバランスファンドも信託報酬の水準に注意が必要です。ご存知の通り、世界中でゼロ金利やマイナス金利が普通になり、金利収入だけで信託報酬が賄えないケースも多くなりました。特に、金利が高い時期に設定されたファンドに多く見られますが、信託報酬が1.5%を超えている外国債券やバランスファンドも少なくありません。今の金利水準であれば、信託報酬は高くても1.0%、できれば0.5%以内が望ましいと勝手に思ったりしています。
株式に関しては、内外株式とも手数料自由化で、価格競争が進み、限界に近いレベルまできているように感じています。
一般的に、手数料を明示していない、乃至は、明示することが義務付けられていない商品等には、高コストの商品が多いような印象があります。上記の投資信託のコストを大きく上回るものも少なくありません。外貨預金の為替手数料(為替スプレッド)のように明示されていても、通貨によっては非常にコストが高いものも存在しています。個別具体的な商品に関して、今回、ブログでのコメントを控えさせていただきますが、個人的にお付き合いレベルでもお断りしたいようなものは、有価証券を含め、それなりにあります。
金融商品の購入に際し、リスクの所在は勿論ですが、見えないコストを含め、理解できない、納得できない商品は避けていた方が無難と思われます。商品に対するコストを含めた質問に関して、営業担当者から適切な回答が得られない場合は、見送りが賢明と思います。リターンは、結果論ですが、コストは事前に把握可能です。コストは、リターンを犠牲にします。可能な範囲で、金融商品のコストの把握も注意したいところですね。
来週は、お休みします。再来週以降は、「インフレ」についてコメントしたいと思います。
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