「インフレと為替と金利のお話」

一般的にインフレの際は、不動産、株式、金(ゴールド)等を保有すると良いと言われています。実際は、どうでしょうか?

インフレの話は奥が深いので、連載を少し続けたいと思っています。

 

そもそも、インフレですが、物価(消費者物価指数CPI、卸売物価指数WPI)の上昇を言います。物の価値が上がりますから、相対的に現金の価値が下がります。それが、現金以外の資産の保有が好ましいとされている背景だとされています。

 

各国の中央銀行は、物価の安定、通貨の安定、雇用の安定が政策目標となります。物価が上昇すると、物価の安定を図るため、需要を抑える目的で、政策金利(短期金利)を引き上げ、需要の抑制に努めます。尚、中央銀行の金融政策は、基本的に短期金利の誘導であって、長期金利は市場に任せるというのが従来のスタンスでした。しかし、金利水準がゼロに近づいたため、量的緩和という金融資産の買い入れを行い、金利全般に大きな影響を及ぼしてきたのが、ここ数年の傾向です。

 

インフレ(物価上昇)が生じると何が起きるでしょうか?

 

金利が上昇します。

 

中央銀行が金融引き締めを行うからです。また、購買力平価に基づいた理論においては(理論上ですが)、通貨が下落します。例えとして必ずしも適切とは思いませんが、「ビッグ・マック指数」というものがあり、マクドナルドのビッグ・マックはどこの国でも同じ価値であるはずであるという前提から来ています。当初、米国で5米ドル、日本で500円とします。米国の物価だけが上昇し、10米ドルになったとすると、米ドルの価値が下がらないとバランスが取れません。

 

5米ドル=500円・・・仮に1米ドル=100円とすると

10米ドル=500円・・・1米ドル=50円で均衡します

 

つまり、相対的にインフレの水準の高い国の通貨は、売られやすいという傾向があります。ひと頃の高金利通貨の代表のブラジル・レアルやトルコ・リラ等は、そのようなケースに該当しました。高い金利は、魅力的ですが、それ以上に物価上昇率が高いと、インカムは確保できても、為替でそれ以上に負けてしまうという残念な結果につながります。(実質金利のお話です)

 

名目金利-物価上昇率=実質金利

(10%の名目金利)-(20%のインフレ率)=マイナス10%

 

例えば、名目金利が10%であっても、物価上昇率が20%だった場合、(他の要因を排除するという極端な前提ですが、)満期まで保有して、金利収入が10%獲得できても、為替で20%負けてしまう可能性があり、トータルリターンもマイナス10%程度になる可能性があるということです。為替は他の要因でも変動しますので、あくまでも、ひとつの切り口とご理解ください。

 

逆に実質金利の高い通貨が買われやすいという傾向もあります。

 

名目金利=見た目の金利

実質金利=名目金利-物価上昇率

 

日本は、長らく、ゼロ金利です。一方、物価はデフレの状態で、マイナスの物価上昇率です。従って、日本の実質金利は、必ずしも低いと言える訳ではありません。

 

日本の実質金利=0%(名目金利)-(マイナスの物価上昇率:デフレ)

0%(名目金利)-(-0.2% :2021年7月の数値)=+0.2%(実質金利)

 

見た目の金利がゼロであっても、物価上昇率が大きくマイナスになると、実質金利は高くなり、通貨が買われやすくなります。為替は複数の要因で動きますので、実質金利だけで判断できる訳ではありませんが、対米ドルでの円高傾向継続というのは、上記の背景もあると思われます。外国債券や外債投信の購入を検討される場合は、名目金利の水準だけでなく、その国の消費者物価指数の動向もチェックして、実質金利の把握が欠かせないと思います。

 

また、「物価が上昇すると預金金利も上昇するから良い」という意見もあるでしょう。しかしながら、預金金利の上昇は、物価上昇率と比較して、なだらかで遅くなるのが常です。預金を保有していても、預金金利以上に物価が上昇すると、実質的な価値は目減りします。100万円の預金で金利が1%になったとして、1年後、101万円です。同時に100万円で買える家具でも中古車でも良いのですが、5%の物価上昇が起きたとしたら、105万円となります。101万円では、買えませんよね。つまり、預金金利が上昇しても、それ以上に物価が上昇すれば、実質的な預金の価値は減価し、購買力が低下します。このような背景から、預金から不動産や株式にお金が流れやすくなるということが言えるのだと思います。

 

 

また、インフレは、物価上昇ですから、以下の関係が成り立ちます。

 

物の価値↑、通貨の価値↓

 

通貨の価値が下落しますから、借入負担が減少します。借入の金額は名目ベースですから、物価上昇しても変化はありません。返済はその時点の実質ベースなので、インフレになればなるほど、返済の実質的な負担は減少します。逆に、デフレの際は、借入負担が増加します。現金の価値が上昇するので返済の負担は増加します。もっとも、何を目的に借入を行うのかというより大きな問題もありますけどね。

 

 

次回は、「インフレと金利と株式、他の金融資産のお話」の予定です。

 

当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。

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