前回は、インフレと株式、不動産、仮想通貨、ゴールドについて、お話しました。今回は、債券との関係について、考えてみたいと思います。
いままで、お話した通り、物価と通貨には、以下の関係が成り立ちます。
物の価値↑ 通貨の価値↓ 短期金利↑
また、物価が上昇すると各中央銀行は物価の安定を図るために、金融政策を通じて、短期金利の引き上げを行うことが一般的です。以前、触れた通り、中央銀行が調整するのは、基本的には短期金利なのですが、量的緩和という目的のために中長期債も購入した経緯があります。今後、購入した債券をどのように対処するのか?(売却、償還)という課題がある訳ですが、金利の適正化や中央銀行のバランスシート適正化等という視点からは、長期金利も上昇しやすい条件が揃いつつあるように感じています。
債券市場も非常に奥の深い金融市場です。金利上昇と言っても、各年限によって、値動きが異なるケースもあり、短期金利よりも長期金利の方が高いとは限らない世界です。
債券価格は、金利が低下すると価格は上昇し(値上がり)、金利が上昇すると価格は低下(値下がり)します。おさらいですが、以下をご覧ください。
償還期限1年でクーポン1%の債券を100万円購入したとして、何らかの理由で、直後に金利が急上昇し、同じ条件でクーポン10%の債券が発行されたとします。すると、クーポン10%の人気に比べて、1%の債券は当然、人気がなくなります。
理論的には、同一の発行体で償還期限が同じであれば、最終利回りは同じになる裁定が働きます。
つまり、
償還期限1年 クーポン10% 額面100万円⇒価格100円(最終利回り10%)
償還期限1年 クーポン1% 額面100万円⇒価格91円(最終利回り≒10% ※)
◆償還差益9円とクーポン収入1円の合計10円
- 厳密には、91円で購入すると直接利回りは異なりますが、便宜上、概算値を用いています。
以上のように、金利上昇すると債券価格は下落します。
単純に申し上げれば、低い金利の時に購入した債券は金利上昇に伴い、含み損の状態になる可能性が高いと言えます。金利上昇局面がどの程度の期間、続くのかという点ですが、外部環境によって一概に申し上げられませんが、短くても半年から1年、長ければ3年以上という印象です。
金利を引き上げても、需要を抑制できるまでには、一定の時間がかかるので、漢方薬を処方して効果が出るのに時間がかかるのと同様のイメージです。
以上の事実を踏まえて、インフレ(金利上昇)と債券投資の戦略を私なりに考えると
【インフレ局面(金利上昇局面)の債券投資】
- ともかく、じっとしている(含み損であっても、次の金利低下局面まで我慢する)
- (金利が上昇したら、定期的に)追加購入する
- 短期債やMMF等の短期金利連動商品で対処する(政策金利の上昇に、ある程度、連動する)
- 債券のアクティブファンドを保有する
- 債券を保有しない
とりあえず、簡単にできる手法として、上の5つの戦略をピックアップしてみました。
- に関しては、機会損失が発生するのといつの段階で含み損が解消できるか不明であることから、個人的には現金化して③の短期金融商品にシフトしたいところです。損失確定、損益通算の状態等、諸条件はありますが、
- に関しては、債券の投資手法として、ラダー型(はしご型)というものがあり、償還期限の異なる債券を、定期的に一定額投資し保有するというアプローチになります。1年おきに新発債を購入してゆくイメージでしょうか?これは、伝統的な投資手法として機関投資家の皆さんには普及している戦略です。
- に関しては、個人的には、一番、妥当な手段と感じています。流動性が高いので、いつでも資金をシフトでき、金利の頭打ちが見えて、今後、金利低下が見込める際に、長期の債券にシフトするという考えです。
- に関しては、難しい判断ですね。と申すのも、債券投資に関して実績のある運用機関があるのは事実なのですが、投資手法やリスク管理等が複雑で一般の方には、判断が困難という背景があります。また、実績があっても、常にうまくゆく訳ではありませんから、パフォーマンスに関しては、結果論という面も否定できません。それと、信託報酬というコストと金利水準のバランスがとれているかという面もあります。(1%の金利水準で2%の信託報酬であれば、なかなか、リターンは期待できませんね)
- 最後に債券を保有しないという選択肢です。預金等に待機資金を保有するイメージですね。このアプローチも妥当だと思います。少なくとも、評価損は生じない訳ですし、短期債やMMFと同様、流動性が高いので、いつでも、資金シフトが可能というメリットがあります。
繰り返しになりますが、債券価格は金利低下で価格が上昇します。金利上昇だと価格が下落します。金利低下が見込まれる局面では、長期債、金利上昇が見込まれる局面では短期債というのが鉄則ですね。
債券の世界には「デュレーション」という概念があり、①元利金の平均回収期間、②金利が1%動いた際の価格変動の大きさという2つの意味があります。基本的には、金利の変化に対する影響は、長期債の方が大きくなり、クーポンが低い方が大きくなります。言い換えれば、金利上昇局面では、償還までの期間が長い債券、クーポンが低い債券がより大きな影響を受けます。逆に金利低下局面では、できるだけ長めの債券を保有したいところです。
今回の結論としては、
私見ながら、インフレで金利上昇の展開になった際には、短期債を中心とした運用をメインにし、金利が上昇から低下に転じる際に、長期債にシフトするという戦略を考えたいと思います。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
次回は、「年末にかけて、考えておきたいこと(有価証券)」の予定です。
いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。
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