今回は、自国通貨の円安について考えてみたいと思います。
2021年10月8日現在、米ドル/円は、111円近辺です。
米国の債務上限問題、中国の不動産業界の問題、グローバルでの資源価格上昇等により、今週前半は、リスクオフ(株式下落)の展開でした。通常、リスクオフになると、米ドル/円の関係は円高になる傾向がありましたが、今回は、やや円安方向になっています。米金利の上昇等が背景だと考えらえます。
為替が円安(米ドル高)になると何が起きるでしょうか?
◆輸入している財貨の価格が上がります。
◆輸出している財貨の価格は現地通貨ベースでは下がるため、価格競争力が増します。
◆外貨建てで保有している財貨は、円安・現地通貨高により価格が上昇します。
◆外貨建ての負債(借入や社債、国債等)は、現地通貨高により大きくなります。
日本は、貿易黒字国で輸出依存度が高いため、円安・現地通貨高は、長い間、プラスであると評価されてきました。日本企業の業績や株価(特に輸出企業)も円安だと、収益向上の面から買われやすい展開になりました。しかし、グローバル企業は、単純な為替管理をしている訳ではなく、為替変動に備えて、様々な手法を用いて、影響を排除しています。
最近の為替動向と株価動向が連動しにくくなったのは、上記のような背景が一因と考えられますが、加えて、外国人投資家の比率が国内株式市場で高まるにつれ、米ドルベースでの株価、ユーロベースでの株価という視点も重要になってきます。私たちの投資も同様ですが、外貨に投資する場合、以下の関係が生じます。
自国通貨での外貨建て資産の評価=現地通貨での資産の評価+為替変動
単純化すると、米国株の場合
円建ての米国株式の評価↑↓=米国株式の評価↑↓+為替の評価↑↓
ということで、円安になると国内投資家の海外への投資は、為替要因がプラスに働きます。また、日本に投資している海外投資家から見ると、為替要因がマイナスになることを意味します。勿論、為替をヘッジして、リスク管理を行うケースも多いと思いますが、海外投資家目線では、円安による企業収益の好転と円安による資産評価のマイナスを天秤にかけることになると思います。
では、改めて、我々が海外に投資している場合は、どうでしょうか?
上記の通り、円安(現地通貨高)になれば、円ベースの評価は上がります。
米ドル/円が100円の時に投資し、150円になれば、原資産の価格変動が無くても、50%のプラスが生じます。海外に投資している方にとっては、プラスですね。逆に50円になれば、50%のマイナスが生じます。
その一方、円安の影響は、生活者の視点ではどうでしょうか?
まず、輸入物価の上昇が発生します。ガソリン価格等がそうです。基本的に原油価格と為替で国内のガソリン価格は決定します。また、食料自給率の低い日本ですから、様々な経路を経て、物価の上昇につながる可能性は高いと思います。生活者の立場からだけ言えば、一次産品の輸入の多い日本の場合、円高のメリットの方が大きいと感じます。
新興国などは、外貨建ての負債が多い場合も多く、(自国通貨の信用が高くないため、外貨建てによる信用補完により発行の難易度が下がります)自国通貨が売られると、負債が大きくなり、為替の介入なども実施されることがあります。日本の場合は、国債の保有者が国内に多く、現時点では、為替の影響は限定的と思いますが、通貨安は色々な面で、マイナスも少なくありません。
「インバウンド」がコロナの前までは、よくもてはやされていました。アジア圏を含めた海外の皆さんが豊かになったという背景はあるのですが、日本国内の物価が相対的に低くなって、海外から見ると良いものが安くなっているという背景も大きいと思います。この10年来、一人当たりGDP(豊かさを表す指標と言われています)の数値は、残念ながら日本は概ね、横ばいです。収入の伸び、税金、社会保険料の負担増等の影響もありますが、可処分所得が伸びない状態が続いています。その一方、アジア圏を含めた海外の一人当たりGDPの伸び率が高く、購買力も高まっています。そんな環境で円安であれば、海外の皆さんはこぞって、日本にやってきます。一方、海外へ出かけた際の物価水準に驚くケースは少なくないと思います。一人当たりGDPが伸びていないだけでなく、為替水準が円安水準であるため、日本人の購買力は残念ながら落ちています。
また、一般的に一人当たりGDP等は米ドルで評価されます。従って、自国通貨高であれば、数値が大きくなります。言い換えれば、自国通貨で同じ数値であっても、円高(自国通貨高)であれば、米ドルベースの数値は大きくなり、海外に対する購買力が大きくなったことになります。名目の為替では、米ドル/円は、現在、111円近辺ですが、為替レートには、貿易額を加重した「名目実効為替レートや」それにインフレを考慮した「実質実効為替レート」があり、後者の数値を見ると1990年代後半から円安トレンドが続いています。これも、豊かさを感じられない背景の一つと言えると思います。だからと言って、急激な円高が良いという訳ではありません。経済力に見合った水準が好ましいと感じています。
それでは、円安に備えるには、どうしたら良いでしょうか?
外貨建て資産を保有することで、一定の輸入インフレの対策になります。とは言え、全資産のどの程度を保有した方が良いかと言えば、為替リスクを考慮すると、感覚的に、多くても30%程度の印象です。勿論、海外に生活拠点がある場合、今後、海外に移住を検討されている方はもっと大きなウエイトでも良いとは思います。
為替の円安による企業収益の増大が見込めていた時期は、別として、現在の国内の状況を見ると、円安はマイナスの影響の方が大きくなったと感じています。そのため、輸入物価のインフレヘッジとしての外貨建て資産保有の重要性が増しています。円高になったら、損失が発生するというお声も聞こえてきそうですが、その時は、物価が安定し、生活者の立場では、購買力が増すため、プラスの面もある訳です。保険的な位置付けと捉えた方が良いですね。
以前のインフレのブログでもお伝えしたとおり、物価は基本的には、需要と供給のバランスで決定します。しかし、為替が自国通貨安になることで、需要が一定でも、輸入物価は上昇します。言い換えると、自国通貨(円)での購買力が落ちることを意味します。「円預金は安定しているので良い」という考えをお持ちの方も少なくありません。しかし、経済活動がグローバル化して、生活者の立場でも為替の影響は大きくなってきています。一定の外貨資産を保有することで、輸入インフレの影響をヘッジするという考え方の重要性も高くなっていると思っています。
米国でもインフレが懸念されている昨今ですが、投資対象としては、「米国短期債」、「米ドル建てMMF」や「グローバル株式」等を個人的には検討したいところです。
最後に、金融マーケットが混乱に陥ると、「リスク回避の円高」という動きが生じることがありました。しかし、諸条件次第では、「リスク回避の円安(米ドル高)」という展開も否定できません。経済がグローバル化している以上、やむを得ない面はありますが、様々なリスクに対して備えはしてきたいものです。
来週は、「ああ! 株主優待」の予定です。
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