リスク管理に関しては、運用のプロである機関投資家の皆さんも試行錯誤して、金融マーケットに対処されています。今回は、心理面も含めた対応について考えてみたいと思います。
機関投資家のように期間収益(決算までの間の収益)を確保する必要のある投資家の場合は、リスク管理がより重要になります。しかし、基本的に長期投資において、適切な対象(ここが難しいのですが、)に投資している場合は、現金比率の調整の必要性(広義のリスク管理)は限定的だと思います。大幅下落の際の追加投資可能な現金確保や精神的安定の重要性は言うまでもありませんが、
運用会社等、機関投資家の世界には、「リスク・パリティ戦略」という戦略があります。バランス型投資信託等では、リスク管理の手法として活用されているケースが増えてきています。簡単に申し上げると、株式のリスク(ボラティリティ)、債券のリスク(ボラティリティ)、REITのリスク(ボラティリティ)を残高比率で同様にするアプローチです。統計的に、株式>REIT>債券という順番でリスクが小さくなります。仮に株式のリスクを20%、REITのリスクを10%、債券のリスクを5%とすると、ザックリ、以下のような比率になります。(端数が出ていることはご容赦ください)
株式20%(リスク)×15%(保有ウエイト)=0.03
REIT10%(リスク)×30%(保有ウエイト)=0.03
債券5%(リスク)×60%(保有ウエイト)=0.03
資産リスクの大小を、保有ウエイトで調整し、各資産のリスクを同等にする手法です。
この場合、マーケットが急落し、株式やREITのリスク(ボラティリティ、価格変動)が大きくなるとどのような動きになるでしょう?(通常、急落時にリスクは大きくなります)
例えば、株式のリスクが20%から40%に倍増した場合、保有ウエイトを半分に減らす投資行動がとられます。この行動によって、マーケット急落時に更なる急落を招くという合成の誤謬(個々の行動は正しいが、全体の利益を損ねる)のようなことが起こるわけです。株価が急落し、リスクが高まる際に、下落した株式に投資するのではなく、リスクを抑えるために保有している株式を売却する訳ですね。また、それに追随して、ヘッジファンド系のトンレドフォローやCTAといった戦略がポジションを構築していることは想像に難くありません。これらは、プログラムで売買する手法で、個人投資家は、真似ができない戦略ではありますが、リスク管理手法のひとつとしてご紹介しました。この手法も常にうまく行くとは限りませんけどね。日本の投資信託の一部もこのような戦略をとっています。
個人投資家にできる「リスク管理」は、どのようなものが考えられるでしょう?積立NISAやiDeCo等の長期投資は、別途、考えることとします。
数年に数回あるマーケットの大きな急落時、このようなケースでは、「致命傷を負わない」ことが大事になると思います。「Cash is King」という米国のことわざの通り、可能であれば、できるだけ早い段階で現金保有比率を上げることが好ましいと考えられます。
考えられるアプローチとして、常に一定以上の現金比率を保持する、マーケットが不安定になってきた際には、現金比率を上げる(早めに有価証券を売却する)、うまく行っていたことを忘れて一旦、リセットする(有価証券を売却し、仕切り直しをする)等があります。また、本格的なマーケットの急落時は、中途半端な追加投資が仇になるケースも少なくありません。
一方、年に数回程度の調整については、通常のスタンスで良いと思います。もっとも、年に数回程度の調整なのか、数年に一度の大きな急落なのかは、後に判明することで、その時々の判断が難しいことは否めません。敢えて、言えば、マーケットが不安定になった背景を考えることが判断材料になると思います。常に潜在的なリスクはあるわけですが、短期的に収束する性質のものなのか、様々なところへ波及する性質のものなのか、という視点です。現在も中国の不動産問題や資源価格の高騰、一次産品の供給不足等のリスクがありますが、それぞれが深刻化し、他の分野に波及してゆくかどうかを見定めることが大事になりますね。以前は、金融マーケットもグローバルで連動していないこともありましたが、現在は、全ての地域、全ての金融商品が連動していると考えるべきです。リーマンショックの際も、直接的には影響が大きくないように考えられた新興国の株式や債券、為替が大きく売られました。また、通常、相関の高くない資産でも、価格の連動性が高くなり、資産売却による現金化が加速します。更にパニックの最終局面では、流動性が枯渇します。買い手がいなくなり、売却する際も、相当程度、安くないと売却ができなくなります。
金融マーケットの健康状態をチェックするとすれば、株式、債券の値動きが正常かどうか(通常は逆相関の関係が多くなります)、金や原油、仮想通貨、為替等に異常な値動きが見られるかどうか、地政学リスク(国際紛争や政治的な不安)の状態の把握等が挙げられると思います。
追加投資に関しては、事前に投資する水準をある程度、想定しておいた方が良いと思います。▲10%で1/3の追加投資、▲30%で1/3の追加投資、▲50%で1/3の追加投資というイメージです。計画的に追加投資をしないと、大底になった際に余資がないということも発生します。
また、別のアプローチですが、有価証券を購入する際、売却の水準を考慮して、ここまで下がったら購入し、○○円になったら売却するというイメージを持つ方法もあります。日経平均が30,000円になった後、下落したとします。まず、どの水準まで戻るかをイメージします。30,000円は厳しいけれど、28,500円ならば達成可能と考えた場合、「27,000円以下であれば投資してみよう」というような考え方です。漠然と投資するのではなく、売却水準を先にイメージして、投資する水準に目処をつけるアプローチです。
また、複数の資産をお持ちの場合は、将来の見通しが明るいものを優先して追加投資することで、ダメージからの回復が早くなると思います。また、通常モードが前提ですが、複数資産や複数銘柄に投資することも一定の効果があります。個別銘柄に株式市場との連動性を表現する指標にベータ値というものがあります。数値が1よりも大きければ、市場より大きく変動することを意味します。例えば、ベータ値が1.2の銘柄と0.8の銘柄を保有することで、リスクの低減が期待できるわけです。急落時に1.2銘柄が大きく下げた際に0.8銘柄を売却して現金化する、乃至は1.2銘柄を追加購入するというイメージです。もちろん、継続保有もありです。複数資産の場合は、低相関や逆相関のものを保有しておくことでリスク低減につながります。
長期的な視点で、投信の積み立ての場合(積立NISA含む)はどうでしょうか?
こちらに関しては、何に投資しているかという大事なポイントはありますが、基本的に継続することが重要だと思います。含み損になっていても継続することで取得単価を低くすることができ、マーケットの回復時には速やかに含み益に転じることが期待できるからです。含み損が大きくなってくると、精神的な負担も大きくなり、積み立てを止めたくなりますが、できるだけ、継続することでマーケットの回復時には、大きな果実を得ることが期待できると思います。
結論としては、追加投資可能な現金を保有しておくことと精神的な負荷をクリアすることの二点が個人投資家のリスク管理に重要なポイントであると思います。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
来週は、「日本の一人あたりGDP推移について」です。
いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。
内容、ご相談に関しましては、株式会社 Noble principleまでお問い合わせください。