先日、我が国の「一人あたりGDPの推移」について調べてみました。
いくつかの発見がありましたので、今回はそちらをご紹介したいと思います。
「一人あたりGDP」は、豊かさを表す指標としてみなされることが多く、購買力の水準を推測することができます。通常、米ドルベースの表記となりますが、例えば、一人あたりGDPが1,000米ドルを超えてくると家電の普及が進み、3,000米ドルを超えてくると二輪車の普及が進んだりするというイメージです。経済規模の大きさを表すGDPとは、性質が異なります。中国は、GDPでは世界第2位の規模ですが、一人あたりGDPでは、2020年の数値で世界で第62位です。
さて、我が国の一人あたりGDPですが、米ドルベースでの国際比較で、どのような推移をたどったのでしょうか?
以下の表が1990年、2000年、2020年の数値になります。
バブル末期の1990年、日本は、世界で第8位、数値では、25,000米ドルを超えて、米国よりも上位にいました。
1990年 | ||
1 | スイス | 39,888 |
2 | ルクセンブルク | 33,201 |
3 | スウェーデン | 30,254 |
4 | フィンランド | 28,490 |
5 | ノルウェー | 28,187 |
6 | デンマーク | 26,921 |
7 | UAE | 26,622 |
8 | 日本 | 25,896 |
9 | アイスランド | 25,651 |
10 | 米国 | 23,848 |
25 | 香港 | 13,281 |
27 | シンガポール | 12,763 |
2000年の数値では、日本はルクセンブルクに次いで、世界第2位です。数値では39,000米ドルを超えています。
2000年 | ||
1 | ルクセンブルク | 49,183 |
2 | 日本 | 39,173 |
3 | スイス | 39,077 |
4 | ノルウェー | 38,048 |
5 | 米国 | 36,318 |
6 | UAE | 34,689 |
7 | アイスランド | 32,344 |
8 | デンマーク | 30,799 |
9 | カタール | 30,461 |
10 | スウェーデン | 29,589 |
15 | 香港 | 25,574 |
20 | シンガポール | 23,853 |
2020年は、どうでしょうか?
日本は、世界で第23位、数値では40,000米ドルを超えたところです。香港やシンガポールの数値を下回っています。
2020年 | ||
1 | ルクセンブルク | 116,921 |
2 | スイス | 86,849 |
3 | アイルランド | 83,850 |
4 | ノルウェー | 67,176 |
5 | 米国 | 63,416 |
6 | デンマーク | 60,494 |
7 | アイスランド | 59,634 |
8 | シンガポール | 58,902 |
9 | オーストラリア | 52,825 |
10 | オランダ | 52,248 |
15 | 香港 | 46,753 |
23 | 日本 | 40,146 |
一人あたりGDPの順位の推移で言えば、我が国は
1990年8位→2000年2位→2020年23位
最近は順位が落ちていて残念な位置ですね。数値で見るとどうでしょうか?
1990年25,896米ドル→2000年39,173米ドル→2020年40,146米ドル
1990年を100として、指数化してみると
1990年100→2000年151.3→2020年155.0
となり、2000年は1990年対比で50%程度伸びていることがわかります。しかし2000年と2020年の20年間に関しては、あまり伸びていません。
一方、2000年に日本が世界第2位だったという事実に私は、違和感を覚えました。失われた10年と言われ、金融不安がようやく収まった時期です。
米ドル建ての評価なので、為替の影響を考慮する必要があると思い、改めて、当時の為替を確認したところ、以下の通りとなりました。(年間平均の値です)
1990年 144.8円 2000年 107.77円 2020年 106.77円
米ドルベースでの数値ですから、円高になっていれば、一人あたりGDPの数値は大きくなります。仮に1990年25,896米ドルの当時の為替144.8円に当てはめ、その後、一定として指数化してみるとどうでしょう?正確には、輸出、輸入のフロー等を考慮する必要がありますが、簡易的に表現しています。
1990年100→2000年112→2020年115
となり、最初の10年間で12%、1990年からの30年間で15%しか伸びていないことがわかりました。一方、米国は(為替を考慮する必要がありません)以下の通りです。
1990年23,848米ドル(100)→2000年36,318米ドル(152)→2020年63,416米ドル(266)
となり、最初の10年間で52%、1990年からの30年間で2.6倍以上になっていることがわかります。更に香港、シンガポールを見るとどうでしょうか?(為替は考慮しませんが、香港ドルは米ドルに連動しています)
香港 1990年13,281米ドル(25位)→2000年25,574米ドル(15位)→2020年46,753米ドル(15位)
指数化すると、以下の通りとなります。
1990年100→2000年193→2020年352
シンガポール 1990年12,763米ドル(27位)→2000年23,853米ドル(20位)→2020年58,902米ドル(8位)
シンガポールも指数化すると以下の通りです。
1990年100→2000年187→2020年462
これらの事実を見ると、為替の影響があるとは言え、日本経済の停滞が鮮明になってきます。過去からの推移を見ると、相対的には日本が決して豊かな国と言えなくなってきました。
国内のデフレの問題に関して、原因は単純ではありませんが、少なからず、購買力が落ちていることと無関係とは思えません。冒頭でご紹介の通り、一人あたりGDPは、購買力や消費と深い関係があるデータです。昨今、「成長」と「分配」という議論を耳にすることが多くなりましたが、「成長」があってこそ、「分配」の議論ができるのであって、長きにわたって、日本では「成長」が蔑ろにされてきたように感じています。国内の半導体産業しかり、ここにきて自動車分野でも米国のテスラを始めとした新興勢力に劣勢になりつつあるように思います。余談ですが、日本では外資系企業の待遇が良いという印象があるようですが、基本的にロンドンでも香港でもNYでも東京でも、同じ仕事は同待遇です。従って、外資と日系企業の待遇の差というのは、国際比較での内外の待遇の差に近いのではないか、とかねがね、感じていました。
我々は、納税者として、これらの事実を認識した上で、働き方を始めとして生活設計を立てる必要があり、投資という観点でも、購買力があって、消費が伸びている国や地域を検討したいものですね。
来週は、「アノマリーに関する私見」の予定です。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
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