「ESG投信、お前もか?」

ESG投信とは、財務情報に加え、非財務情報である環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した企業を重視・選別して投資を行う投資信託で、2018年頃より、日本でも設定が相次ぎ、昨年は、かなりの資金流入がありました。

 

 2月7日付け、日本経済新聞12面に、“「名ばかり」ESG投信乱立”という記事が記載されました。趣旨は、従来、ESG(環境・社会・企業統治)銘柄は、他の銘柄群と比較して、質が高い企業が多いことから、株式市場下落時に下値抵抗力があり、一般的なアクティブファンドよりもパフォーマンスが相対的に優れていた一方、昨年末以降は、寧ろ、劣後してきたというものです。背景としては、大半の企業は何らかのESG対応をする中、運用会社の投資基準が緩和され、ハイテク系の銘柄の占める比率が高くなったことがあり、投資家から見て、投じた資金がどのようにESGを通じて、社会の課題解決につながるのか、わからないという問題点も指摘されていました。

 

この記事を見て、過去の記憶を思い出しました。約20年前に乱立した「エコファンド」です。これは、地球環境を考慮した企業経営がなされている企業に投資をするというコンセプトで、運用会社各社が相次いで、設定運用を開始しました。タイミング的には、当時、ITバブルと呼ばれ、成長小型株が注目され、株価が大きく上昇していた頃です。旧ヤフーの株価が1億円を超え、ソフトバンク、光通信といった銘柄を一単位購入するのに1,500万円以上の資金が必要な位、株価が上昇していました。

 

件の「エコファンド」ですが、運用開始後、組み入れ銘柄をチェックすると、成長小型株の花形銘柄が中心となっていました。当時のソフトバンクや光通信といった企業群が地球環境に配慮した企業経営を特段していたように思いませんでしたが、株価上昇のモメンタムは非常に強かったのは間違いありません。実際には、パフォーマンスを確保するために、組み入れざるを得ない状況にあったのは、理解できなくは無いのですが、果たして、運用コンセプトと合致していたのかというと、甚だ、疑問を感じていました。

 

その後、一時的にパフォーマンスが上がったものの、残念ながらITバブルも終焉を迎え、花形銘柄も大きく下落しました。光通信などは20数日連続ストップ安という急落になったことを記憶しています。「エコファンド」自体も、設定当初は基準価額も順調に推移していたものの、ITバブル崩壊の影響から基準価額も50%近く下落し、ブームも終焉したとの記憶があります。

 

その後、「エコファンド」の組み入れ銘柄は、大幅に見直され、基準価格も回復しましたが、ブームが再び、訪れることはありませんでした。

 

 ESGに関しても、SDG’sに関しても、スコアリングされた指標があり、各企業に点数がついています。その点数の良い企業に投資をするというアプローチが大義名分なのでしょうが、仮にスコアが良い企業に投資しても株価推移が優れなければ、運用他社との競争に勝てないというジレンマを推測します。また、株式投資は、将来に向けた変化を株価が織り込むことで株価が変化していく面が大きく、ある時点のスコアが良い企業に投資することとある時点ではスコアが良くなくとも、将来的に大きく改善が見込める企業に投資をすることと、どちらが好ましいかという論点もあります。この視点は、ROE(株主資本利益率)に着目したファンドでも同様ですが、投資家から見ると、それらのコンセプトが曖昧で判断がつきにくいケースが多いように感じています。

 

ESG関連ファンドは、アクティブファンドが主体で、信託報酬を含めた運用コストが高めである点も気になるところです。運用コストが高めでも、それを上回る超過収益(パフォーマンス)が獲得できれば良いのですが、現状、苦戦しているファンドが多いようです。そのため、株価のモメンタムの強い(勢いのある)銘柄を組み込まざるを得ない印象もあります。

 

また、オーソドックスなアクティブファンドの焼き直し的なESGファンドが散見されるのも気になります。そもそも、魅力的な企業は、ESG対応を既にしているケースも多く、結果的に組み入れ銘柄の重複が見られる背景のように思います。これらは、金融機関の商品戦略や販売戦略上の都合のように見えてしまうケースも存在します。

 

そもそも、ESGに特化した企業のパフォーマンスが他と比べて優れているのか、という論点もありますね。個人的には、ESGというコンセプトは、あくまでも必要条件であって、(必要だけど、十分ではないという意味です)企業評価や企業価値は、別の視点で語られるべきと思います。環境や社会に配慮することを企業が重視する方向性は間違いないと思いますが、それらを重視する余り、必要な設備投資や研究開発費を後回しにしたり、株主還元を軽視したりするケースがあった場合、企業経営の優先順位に疑問を感じざるを得ません。逆説的ですが、それらの対応ができる余裕のある企業なので、株式市場の急落局面では、資金の逃避先になりやすいということは言えるかもしれません。

 

今後、ESG投資がより定着すれば、インデックスファンドも多数、登場してくると思います。ESGという概念は、企業にとって、非常に重要なものであることは間違いないのですが、投資対象としてパフォーマンスが優れているか、どうかは、別の議論だと思っています。個人的には、超過収益の獲得が期待できるというコンセンサスが確立してからでも、投資対象として検討するのは、遅くないように感じています。

 

各運用会社には、運用コンセプトの明確化や組み入れ銘柄の特徴を出した独自性のある運用を期待したいところです。

 

 

次回は、「ETF(上場投資信託)投資の留意点」の予定です。

 

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