今回は、かなり難しいテーマを選んでしまいました。
今更ですが、若干、後悔しています。
気を取り直して、それでは、
株主還元策として「配当」と「自社株買い」は、代表的な資本政策です。
米国は、純利益に占める配当と自社株買いの合計の比率である「総還元性向」が高い傾向にあります。2020年で日米を比較すると、米国が平均83%、日本が平均29%だったようです。特に米国では、自社株買いが株価上昇の大きな要因になっています。その一方、日米ともに、政治的に自社株買いに対する規制の議論が出ている点は、要注意です。
まず、配当から
配当は、純利益をから株主に分配するもので、その比率は配当性向とされます。
配当性向=配当金/純利益
配当に関して、より詳細に分析するためには、配当利回り、配当性向、時系列での配当推移、営業利益の推移、純利益の推移などの指標をバランス良く見る必要があると思います。
株主にとって、配当自体は高い方が好ましいようにも思えますが、事業継続を考えた場合、設備投資や研究開発やM&Aなどの重要案件もあり、業種や企業の成長ステージによって、適切な水準は異なると考えられています。いわば、高ければ良いというものでもありません。成熟企業で設備投資などの案件がない場合は、株主に配当という形で還元した方が良いとの考え方もあります。ただ、利益水準が低ければ、一般的に配当水準も低くなりますね。
日本企業でここ数年、大幅な増配が実施されるケースを見かけます。利益成長に見合った水準で且つ継続的に可能な配当水準であれば良いのですが、時価総額拡大を目指した増配の印象の企業も少なくありません。また、連続増配企業というカテゴリーもありますが、必ずしも、配当水準が高いとは限らないこと、連続増益や連続増収とは別の概念であることは注意が必要かもしれません。米国株に多くの連続増配企業がありますが、まだ、分析が十分ではないので、今回は個別のコメントは差し控えます。
自社株買いはどうでしょうか?
自社株買いの投資家にとってのメリットは、発行済み株式数減少により、EPS(一株利益)やROE(株主資本利益率)向上が考えられます。同じ利益水準でも株数が減少しますので、一株あたりの価値が上昇します。但し、資本が減ずるので、自己資本比率が低下し、経営の安定性が損なわれる可能性は否定できません。
企業が資金を配当に回すか、自社株買いに充てるかの経営判断は難しいものがあると思います。株価水準が適正価格よりも安いと経営者が判断し、アナウンスメント効果も考慮して自社株買いが行われるパターンがあります。但し、自社株買いを発表し、買い付けを行っても償却せずに金庫株の形で保有すると、本来の目的であるEPS(一株利益)、ROE(株主資本利益率)向上につながりません。流通株数は減少しますけれど。
また、効率的市場であれば別ですが、自社株買いを実施しても株価が期待通りに上昇するかどうかは別問題という点も議論の余地がありますね。更に、国内の投資家の評価や満足度が増配と自社株買いのどちらが高いかという視点も気になります。
経営者の立場からは、配当は減配すると業績に対する責任を問われやすい一方、自社株買いは、タイミングを見て対応でき、定期的に対処する必要がないので、後者の方にインセンティブが働きやすいと考えられます。
別の視点として、これらの課題を考えてみます。
内外各企業は、株主重視の観点から時価総額の増大を役員報酬決定の要件に掲げているケースが少なくありません。その時価総額増大の方向性に関しては、全く同意するのですが、手法に関しては、賛同できないケースも考えられます。
今年、東京証券取引所で市場改革が行われました。その中で、プライム市場は、流通時価総額が100億円以上、株主が800人以上と定められており、基準ギリギリの企業などは、時価総額増大や株主数確保にインセンティブが働きやすい環境に映ります。仮に脱落すると将来的にTOPIXから除外され、時価総額が大きく減少する可能性があります。経営責任につながる可能性もありますね。また、株主優待制度の廃止や条件変更なども話題になっていますが、一定数の株主数の確保が見えている企業はコストを掛けてまで、株主優待制度を維持する必要はありませんね。その分は、配当に回せば良いのですから。
配当増配でも自社株買いも同様ですが、時価総額を増やすために、設備投資や研究開発よりも株主還元を優先する可能性が出てきます。事業継続や企業価値拡大のために設備投資を行うタイミングであっても、短期的な時価総額増大による役員の報酬を優先する可能性です。また、物理的には、借り入れを行って、その資金で自社株買いを行うことなども是非は別として経済活動として可能であると思います。
自社の自己資本比率の適正水準に関して十分な議論を行うと共に株主に対してのコミュニケーションが行われていれば別ですが、そうでなければ、利益相反が生じる可能性もありますね。配当に関しても、同様です。短期的には、株主は配当水準が高い方が望ましいのは無論ですが、長期の視点では適正水準を安定成長させることが重要だと思います。大幅な増配を実施すると、確かに一時的に株価が上昇するケースが考えられます。また、業績が振るわなくても減配することなく、配当性向が100%を超過していたケースも見受けられました。短期の株主、長期の株主、役員、従業員、取引先など複数のステークホルダーの利益が絡みますので、最適化は難しいところですが、本末転倒ではない適切な資本政策を期待したいところです。
次に投資家目線に立って、証券税制を前提として配当と自社株買いは、どうでしょうか?
配当控除や外国税額控除は、他の所得との関連が複雑になり、控除を受けない方がトータルでは良いケースも考えられることから、単純に特定口座の源泉徴収ありの場合で考えたいと思います。
自社株買いにより、株価が適正な水準まで上昇したケースを考えます。
◆国内株の場合
売却益も配当課税も国内株は、20.315%で税率は、同じです。
従って、税負担の面では変わりませんが、自社株買いの場合、株価が値上がりした際に売却するかどうかの判断を投資家がすることが可能であり、課税の繰り延べができます。他の有価証券との損益通算のチャンスも確保できます。
◆米国株の場合
売却益に関しては、国内株と同様、20.315%ですが、配当は現地で10%課税された後に、国内で20.315%課税されます。従って、配当金に対して、課税後受け取る配当金の水準は、額面に対して71.7165%の水準となり、30%弱の税負担が生じます。この場合は、自社株買いによって株価上昇したケースの方が、税負担の大きさ、課税の繰り延べの選択肢があるという面から優位になると考えられます。
ブログなどで米国好配当銘柄の配当金をすぐさま、再投資することに喜びを感じている方もいるようですが、実際のところ、税負担を考慮すると米国株の配当金を再投資目的に得ることは、やや疑問が生じますね。寧ろ、個人的には、自社株買いで株価上昇を期待したいところです。とは言え、得た米ドル建ての配当金を円転するとコストが生じることから、悩ましいところではあります。米ドルで保有し、株価が下落した局面で買い付けを行うことがベターなのでしょうね。
※米国株の配当金は、取引証券会社の口座に現地通貨で入金されます。(2022年4月現在)
自社株買いも配当も株主還元政策の柱です。
適切な施策を通じて、発行企業も株主も共に報われる展開になることを期待します。
次回は、「副収入の税制にご用心」の予定です。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
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