将来の年金受給に対する不安や安定した生活基盤の確保のため、副収入の重要性は増しています。
配当収入だったり、不動産収入であったり、金融資産や実物資産からの収入確保の必要性を認識されている方は、多かれ少なかれ、多いように感じています。
もちろん、副収入は、収入である以上、課税対象になり、場合によっては、確定申告が必要になります。また、各々の所得水準やどの所得区分になるかによって税率は異なってきます。
税務は、ややこしいので、食べず嫌いな方も少なくないかもしれませんが、知れば知るほど、重要性が身にしみます。今回、私なりにできるだけ、簡潔にまとめさせて頂きます。
尚、詳細に関しては税理士の方にご相談ください。
所得税法によると所得は10種類に区分され、総合課税と分離課税に分かれます。所得区分によって税率が異なることから、類似の資産へ投資しても、税引き後のリターンが異なるケースが考えられます。
まず、所得税の速算表を見てみましょう。所得が多くなれば、税率が高くなる累進課税です。最高税率は、住民税込みだと55%になります。
課税される所得金額(千円未満は切り捨て) | 税率 | 控除額(円) |
195万円以下 | 5% | ¥0 |
195万円超330万円以下 | 10% | ¥97,500 |
330万円超695万円以下 | 20% | ¥427,500 |
695万円超900万円以下 | 23% | ¥636,000 |
900万円超1800万円以下 | 33% | ¥1,536,000 |
1800万円超4000万円以下 | 40% | ¥2,796,000 |
4000万円超 | 45% | ¥4,796,000 |
また、この表に住民税の所得割(都道府県税4%、市町村税6%)、均等割(1,500円、3,500円)が加算されます。
総合課税の税率と他の分離課税の税率とのギャップについて考えてみます 。
総合課税の対象になるものは、給与所得などに加算されてしまい、累進課税の対象になってしまいます。一方、分離課税で給与所得などに加算されないものとして、退職所得や利子所得、有価証券の譲渡所得や配当所得などがあります。(不動産の譲渡所得も分離課税ですが、賃貸収入など不動産所得自体は総合課税になるので、この対象としません)
その中で、有価証券の配当所得のケースを考えてみます。
配当所得は源泉徴収され、2022年現在、20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の課税で完結します。
(このケースでは確定申告による総合課税、譲渡損と損益通算できる申告分離課税は考慮しません)また、有価証券譲渡所得の特定口座の源泉徴収ありの場合も同じ税率となります。その場合、上記テーブルの所得が695万円超以上の方や900万円超の方(家族構成や控除の状況によりますが)の場合、総合課税の税率よりも配当課税や特定口座の源泉徴収ありの方が低くなる可能性があります。(住民税を考慮するとより鮮明です)
極端な事例ですが、所得が1,700万円の方が、不動産投資に5,000万円を投じ、4%のリターンを得たとします。200万円の賃貸収入、言い換えると不動産所得が生じます。その場合、33%のゾーン(住民税考慮すると43%)か、場合によっては40%のゾーン(住民税考慮すると50%)に区分けされる可能性が出てきます。
5,000万円×4%=200万円
仮に40%のゾーンの場合(+住民税10%)、手取りは、
200万円×(1-0.4-0.1)=100万円となってしまいますね。(控除は考慮しません)
33%のゾーンの場合(+住民税10%)の手取りは、
200万円×(1-0.33-0.1)=114万円です。
有価証券のひとつである不動産投資信託(J-REIT)に5,000万円を投じた場合の配当所得は、どうでしょうか?REITによって利回りは異なりますが、やや控えめな水準の3%とします。
5,000万円×3%=150万円です。150万円の配当所得に
20.315%の源泉徴収を加味すると、
150万円×(1-0.20315)=1,195,275円となります。
このように、100万円(40%+10%)、114万円(33%+10%))、119.5万円強(配当課税20.315%)、と手取金額に違いが出てきます。
現実的には、実物不動産の方がREITよりも利回りが高いことが多いので、上記の試算は試算でしかありませんが、不動産の管理や納税の申告などの手間を考えると、どちらが良いかは、一考の価値があるかもしれません。無論、NISAなどの非課税投資枠の有効活用も検討したいところです。
また、年金受給者の場合、年金が雑所得に区分されますので、総合課税になります。副収入の区分によっては、税金の関係で手取額が異なってくる可能性があります。更に健康保険料にも影響を及ぼします。可能であれば、分離課税の方が好ましく感じます。
また、総合課税の対象になる税区分には、雑所得や譲渡所得、一時所得などもあります。
以下、個人的に気になる副収入を列挙してみます。
◆「仮想通貨」
「仮想通貨」は、雑所得に区分され、総合課税の対象になります。
以前、仮想通貨が急騰した際に、納税困難者が多数出たという報道がありました。当初、税務上の取り扱いが不明でしたが、その後、雑所得とされました。既にご案内の通り、雑所得は、総合課税となります。
仮想通貨は売却し、円転した時点で課税が発生するので、他の仮想通貨に乗り換えたとしても納税義務は生じます。なかには、当時、数千万円以上のキャピタルゲインを得た方もいたようです。それだけでも、相当な税額であることは想像に難くありません。
悲劇の背景は、大きく上昇した仮想通貨を売却し、乗り換えた仮想通貨が大きく下落した状況で、多額の納税資金を確保する必要が生じたとのことです。(売却資金では、納税額が不足する事態です)あらかじめ、納税資金分を確保して、買替えをすれば、悲劇は避けられたと思いますが、
現在では、仮想通貨が他通貨に両替可能なケースがあり、仮想通貨同士の乗り換えに対する課税の繰り延べが可能になってきているようではあります。
一方、仮想通貨を代替投資の視点で探してみると、米国には仮想通貨関連企業が上場していますし、ETFの組成も検討されつつあります。こちらは、有価証券ですから、キャピタルゲインは、20.315%の分離課税で納税は完結しますね。全く同様の値動きをする訳ではありませんが、税率を考えると魅力的に映ります。
◆「金」
また、直近、「金」が高値安定していますが、こちらは一般的には譲渡所得になり、保有期間による優遇措置はあるものの、やはり、総合課税になってしまいます。
こちらも、代替投資としては、ゴールドのETFが内外の株式市場に上場していますし、投信もあります。金鉱株も金価格に一定程度、連動します。前述の通り、こちらも現物資産と有価証券で税区分が異なります。所得の多い方にとっては、有価証券経由の投資の方が税務上は有利ですね。現物を眺める楽しみはありませんけれど、
◆「株主優待」
他にも気をつけたい雑所得に「株主優待」もあります。
雑所得は、給与所得以外の所得が20万円以下の給与所得者ならば申告不要とされていますが、定常的に副収入のある方は、一応、頭に入れておいた方が良いかもしれません。私自身、証券会社や運用会社での仕事が長かったにも関わらず、最近まで非課税と認識していました。最近、良く目にする株主優待のブログや話題で収入を得ている方々は、税務関係は、大丈夫かな?と老婆心ながら感じてしまいます。
◆「ふるさと納税の返礼品」
「ふるさと納税の返礼品」は、雑所得ではありませんが、一時所得に該当します。50万円の特別控除を超えると、一時所得の課税対象になります。
一時所得も総合課税に加算されますから、要注意ですね。相当の収入がないと50万円を超える返礼品の対象にならないと思いますが、こちらも一応、念のため。
◆「その他 宝くじ、ギャンブルなど」
「宝くじ」は非課税で、「競馬の馬券」は一時所得に区分されるようです。
一時所得の50万円の特別控除を超えた場合は要注意ですね。「その他ギャンブル」も、一時所得のようです。実際に確定申告されている方がどの位、いるのかわかりませんけれど。
今回、お伝えしたように、個人の経済活動には、様々な形で税金が関係してきます。納税者として釈然としないケースも少なくないですけれどね。
所得水準が695万円を超えてくるゾーンの方(年収で言うと800万円程度の水準)は、ご自身の副収入の税区分を確認されていた方が良いですね。総合課税の税率よりも低い税率を選択できる可能性があるためです。一方、所得が少ないゾーンの方は、有価証券の課税よりも総合課税の方が低税率になる可能性もあります。
また、一時所得や雑所得、譲渡所得などで、所得を得る場合、(仮想通貨や金などを売却してキャピタルゲインを得る場合など)は、給与所得などの所得が低い時期に売却した方が納税額は小さくなる可能性がありますね。
今回は、税務に関してやや深入りしました。
繰り返しになりますが、個別具体的な案件に関しましては、税理士の方にご相談ください。
国民にとって、納税が義務であることは、論をまちませんが、その使途にも格段の配慮をして欲しいものです。
次回のブログはお休みします。
再開は、5月13日(金)の予定です。テーマは「個別株、5年間のトータルリターンの検証」を考えています。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。
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