個別株、5年間のトータルリターンの検証

 SNSなどで高配当株投資の投稿をよく見かけます。

それらを踏まえ、安定的な配当が実施され、長期保有が推奨されている日本企業を独断で選んで、5年間の配当総額と含み損益のトータルリターン(税金、優待などは考慮していません)を算出してみました。

 

予想通りの結果の銘柄もあり、良くも悪くも期待を裏切っている銘柄もありました。

結果を見る前に、2017年年初に投資し、2021年年末の株価の評価損益とその間の配当総額を考慮したトータルリターンの上位と下位をイメージしてみてください。

 

算出した企業群は、順不同で以下17銘柄です。

 

・武田薬品工業

・JT

・JFEホールディングス

・三井物産

・ゆうちょ銀行

・KDDI

・日本郵船

・オリックス

・トヨタ自動車

・三井住友FG

・東京海上

・日本郵政

・住友商事

・SBIホールディングス

・キャノン

・ブリヂストン

・住友林業

 

 

 

 

以下にトータルリターン上位からのランキングをご紹介します。

コード 銘柄 2017年
始値(円)
2021年
終値(円)
含み損益(円) 配当総額(円) トータル
リターン(円)
投資収益率 年間
平均収益率
9101 日本郵船 2,210 8,760 6,550 290 6,840 309.5% 61.9%
8473 SBI 1,510 3,135 1,625 455 2,080 137.7% 27.5%
7203 トヨタ 1,402 2,106 704 1,110 1,814 129.4% 25.9%
8031 三井物産 1,618 2,724 1,106 370 1,476 91.2% 18.2%
1911 住友林業 1,557 2,226 669 235 904 58.1% 11.6%
8766 東京海上 4,949 6,392 1,443 1,010 2,453 49.6% 9.9%
8591 オリックス 1,845 2,348 503 348 851 46.1% 9.2%
8053 住友商事 1,400 1,701 301 337 638 45.5% 9.1%
5108 ブリヂストン 4,298 4,949 651 750 1,401 32.6% 6.5%
9433 KDDI 2,960 3,362 402 515 917 31.0% 6.2%
8316 三井住友FG 4,549 3,943 -606 880 274 6.0% 1.2%
7751 キャノン 3,360 2,801 -559 660 101 3.0% 0.6%
5411 JFE 1,816 1,467 -349 235 -114 -6.3% -1.3%
7182 ゆうちょ銀行 1,413 1,055 -358 250 -108 -7.6% -1.5%
4502 武田 4,888 3,137 -1,751 900 -851 -17.4% -3.5%
6178 日本郵政 1,465 897 -568 257 -311 -21.2% -4.2%
2914 JT 3,882 2,102 -1,780 598 -1,182 -30.4% -6.1%

(各種資料よりNoble Principleが作成)

 

 

17銘柄中プラスのリターンが12銘柄でした。

多いような、少ないような、微妙な印象ですね。

 

トータルリターン上位3位は、

 

1位:日本郵船 309.5%(年平均61.9%)

2位:SBI 137.7%(年平均27.5%)

3位:トヨタ自動車 129.4%(年平均25.9%)

 

という結果になりました。

 

日本郵船は、コロナの影響で運賃上昇による業績好転による後半の株価急騰が背景です。

SBIは、地方銀行との提携など積極的な事業展開を行い、株価が上昇し、加えて、高水準な配当利回りも寄与しました。

トヨタ自動車は、さすがですね。業績の裏付けのある安定した配当と株価上昇で3位にランクインしました。

 

 

また、下位3位は

 

ワースト1位:JT(日本たばこ) ▲30.4%(年平均▲6.1%)

ワースト2位:日本郵政 ▲21.2%(年平均▲4.2%)

ワースト3位:武田薬品工業 ▲17.4%(年平均▲3.5%)

でした。

 

JTは、海外展開を指向しましたが、国内たばこ産業の斜陽化の影響が大きく、配当を上回る株価下落となりました。今後もロシア事業での減損対応などに注目です。

日本郵政は、グループ内の不祥事の影響や事業の制約などが背景から株価が下落しました。

武田薬品工業は、シャイアーの買収による利益貢献が不透明なことなどから株価の下落です。

 

ワースト3銘柄とも高配当銘柄として取り上げられる機会が多いのですが、業績や企業戦略がシッカリしていないと、配当以上の株価下落につながった残念な事例です。

 

5年間のトータルリターンがマイナスだったのは、上記の銘柄に加えて、以下の2銘柄

 

ワースト4位:ゆうちょ銀行 ▲7.6%(年平均▲1.5%)

ワースト5位:JFE ▲6.3%(年平均▲1.3%)

 

都合、5銘柄がトータルリターンのマイナス組でした。

下位企業の傾向として、規制業種で戦略の自由度が低いケースが多いように感じます。

 

5年間トータルリターンがプラスだったとは言え、もう少し、頑張って欲しいゾーンには、

 

ワースト6位:キャノン 3.0%(年平均0.6%)

ワースト7位:三井住友FG 6.0%(年平均1.2%)

 

(年間平均5%のリターンを下回る)が該当しました。

 

高配当銘柄は、配当利回りが3%程度以上と見なされるケースが多く、それを前提にすると

平均の年間トータルリターンは、3%+アルファ→4%~5%程度は投資家として欲しいところです

 

 

高配当株は、配当収入がトータルリターンにプラスに働き、株価下落のクッションになる面がありますが、大幅な株価下落に対しては、その効果は限定的です。

 

前述の通り、SNSやネット上で、「高配当株お勧め」などの記事を見る機会が増えましたが、単純に配当利回りをソートしてピックアップしているケースや増配の内容を吟味せずに配当利回りアップなどの無責任な記事も散見されます。増配でも、記念配や特別利益による増配などは持続性がありません。また、今回の対象期間の5年間が妥当かどうか、議論の余地があると思いますが、景気変動のサイクルを考慮し、NISAの投資期間も5年ということでこの期間としました。

 

高配当株の銘柄選択には、様々なアプローチがあると思いますが、マクロ的な視点で、中期的に業績が伸びる業界を見定めて、それらの中から、配当性向や株主還元の方向性が魅力的な銘柄を探すアプローチ方法が私は好ましく思います。

 

現状、残念ながら、ロシアのウクライナ侵攻は、まだ、目処がつきませんし、ロックダウンの影響から中国のマクロ経済指標も悪化しています。為替の円安も相まって、円ベースのコモディティ価格上昇にも歯止めが効いていません。私見ながら、ウクライナの問題が解決に向かっても、グローバルな経済圏やサプライチェーンの分断などから、コモディティ価格が元の水準に短期的に戻ることは難しいように感じています。個別企業に関しては、報道されている通り、仕入れ価格を販売価格に転嫁できるかどうかがポイントになりますね。一般的にインフレ時には、貨幣価値が下落するので、株式や不動産などが相対的に優位になると言われていますが、今回のケースは、グローバルのコモディティ価格上昇が背景で国内の需要増加が背景ではありません。金融政策も財政政策も、よりグローバルな視点が重要だと感じています。

 

このような点から、今後は、原材料価格上昇に強い業種の中で配当水準が高めの銘柄が相対的に株価も下落抵抗があり、配当水準も維持可能だと思っています。ゼロ金利政策が継続する中、一定水準以上の配当の魅力は色あせません。減配や株価下落のない銘柄とお付き合いしたいものです。

 

 

 

次回は、「禁断の?個別の投資信託に関する私見」の予定です。

 

当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。

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