小生の運用会社の営業企画や証券会社の商品企画の経験を踏まえ、今回は、個別の投資信託を俯瞰してみたいと思います。大げさなタイトルですが、職務経歴を踏まえ、今までは、個別商品に対するコメントを差し控えてきましたが、あくまでも私見としてお伝えします。
尚、こちらは個別商品を推奨するものではなく、また、各運用会社との利害関係も無い立場でのコメントであることをご承知ください。
投資信託評価に関しては、商品の組成の立場、選考の立場、投資家の立場から見るとポイントが何点かあります。
◆運用の優劣
同じ投資対象や運用コンセプトでもパフォーマンスは大きく異なります。各々を比較することで優劣を把握することが可能なチェックポイントです。
◆運用コンセプト
「そもそもの運用コンセプトが変化する投資環境に継続的に対応できるのか」という点です。基本的にファンドマネジャーは、運用コンセプト通りの運用を維持する必要があるため、投資環境とのマッチングが重要です。
結果論ですが、最近の金融マーケットに際して、為替ヘッジ付き商品は為替益を放棄することになりましたし、バランス型投信や債券ファンドなどで米国債券を組み入れているケースでは、債券の下落の影響を受けています。超長期の視点では、円高局面になるケースも考えられますし、金利低下で債券が買わたりする局面が来るでしょうが、短期的には、我慢が必要になりますね。
公募投信の場合は、逆風の投資環境でも運用コンセプト自体をむやみに変更することはできません。また、投資対象が下落した際に、ポジションを落としてリスクを減らし、下落に備えるルールやリスクパリティ戦略を設けているファンドもありますが、急反発局面では、リスクを落としたままのため、上昇を捉えることができないというジレンマもあります。個々のコンセプトとマーケットの見通しのマッチングが重要になってきます。
◆投資テーマ
ここ数年、テーマ型投信の設定が多いですが、ややもすると、株価の高値圏で設定されるケースが多いこと、また、テーマ自体に普遍性があるかどうかというのもポイントですね。短期で終わったテーマも少なくありません。
それでは、個別商品に関してコメントします。
2022年4月末現在で残高上位の投資信託は、以下の通りです。
- AB・米国成長株投信Dコース:1,646,693百万円
- eMAXIS Slim米国株式(S&P500):1,144,276百万円
- ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配):1,018,124百万円
- グローバルESGハイクオリティ成長株式:786,560百万円
- フィディリティ・USリートB:696,143百万円
- ダイワ・USREIT(毎月決算)B:666,135百万円
- netWIN GSテクノロジー株式ファンド:664,221百万円
- 投資のソムリエ:601,029百万円
- AB・米国成長株投信B:575,165百万円
- 楽天全米株式インデックスファンド:535,746百万円
ベスト10をザックリ、分類すると、インデックスファンドが2本、株式のアクティブファンドが5本、分配重視のタイプが3本、バランス型が1本となります。(重複ありです)
また、1兆円を超える純資産のファンドは3本でした。
日本株の投資信託が入っていないのは、残念と言うか、当然と言うか、コメントしにくいところですが、期待リターンや実績面などからやむを得ないところだと思います。但し、大人の事情からか、設定されている本数自体は多いのが現状です。
まず、インデックスファンドに関して。
「eMAXIS Slimシリーズ」は、業界最低水準の信託報酬を目指しているインデックスファンドで、残高も多く米国株式に限らず、業界のスタンダードになっていると思います。再三、お伝えしている通り、インデックスファンドは、参照指数に連動を目指すものですから、基本的に指数を上回ることはありませんし、正確には指数から運用コストを控除した分、若干、指数に劣後するパフォーマンスになるはずです。
とことんコストにこだわるシリーズ│mattoco(マットコ)
また、楽天全世界インデックスファンドも残高も多く、信託報酬の水準も妥当だと感じます。
そもそも、インデックスファンドは、信託報酬のレベルと指数との連動性(トラッキングエラーと言います)の大小、残高の水準がクリアされていれば、どのファンドも大差が無いはずのカテゴリーです。むしろ、何のインデックスを選ぶかが重要だと思います。日経225なのか、SP500なのか、国内債券なのか、海外債券なのか、という視点です。その選択で結果が大きく異なってきます。
昨年からグロース株にとって厳しい投資環境が続いていますが、同じく三菱国際投信の「eMAXIS Neo」というアクティブ・インデックスのファンドにはかねてから注目しています。テーマごとのインデックスに連動するファンドで、宇宙やフィンテック、ドローン関連など、個別企業の成否は別として、業界として伸びることが期待できるインデックスに連動することから、残高の推移やパフォーマンスを不定期でチェックしています。また、信託報酬もアクティブファンドよりも低く、参照インデックス自体に信頼があれば、アクティブファンドのライバルになり得る存在だと感じています。
投資のインフラに“革新”をプラス。ノーロード・インデックスファンドeMAXIS Neo(イーマクシス ネオ)
次はランキング上位のアクティブファンドについてです。
「AB・米国成長株投信」は、アライアンス・バーンスタインが運用している米国企業へ投資する株式ファンドです。トレックレコードも長く、且つ安定したパフォーマンスが継続していました。但し、最近、1年程度の期間は類似ファンドのパフォーマンスに劣後しています。組み入れ銘柄は、グロース株だけで無く、バリュー株に近い銘柄もあり、比較的、ポートフォリオが安定しているように思います。とは言え、他のアクティブファンドも同様ですが、グロース株主体でブル相場が続いてきた中でのトラックレコードですから、今後、数年、変調したマーケットになった場合の対処方法に注目です。
他のアクティブファンドも同様ですが、同類のファンド内でパフォーマンスが良好でも、S&P500やNASDAQ指数を安定してアウトパフォームできるかというと別の視点も必要ですね。
「net WIN GSテクノロジー株式ファンド」は、ゴールドマンサックス・アセット・マネジメントの投信です。こちらも長いトラックレコードがあります。アライアンスも同様ですが、外資の運用会社はひとつのファンドを大事に育てる傾向が、日系よりも強く、純資産が一定水準を維持していれば、償還リスクが限定的に感じています。もっとも、外資でも償還を余儀なくされている運用会社はあり、過去の傾向をチェックすることも有効かもしれません。
同ファンドは、ABよりもよりグロース株の比重が高く、よりメリハリのあるパフォーマンスが期待できるコンセプトです。メリもあれば、ハリもあるので、下落局面では大きな下落の可能性も考慮しておきたいですね。グロース株が苦戦している最近1年程度の期間では、同種のファンドのパフォーマンスは劣後しています。
netWIN GSテクノロジー株式ファンド Bコース(為替ヘッジなし) (gsam.com)
「グローバルな視点ESGハイクオリティ成長株式」は、アセットマネジメンOneの商品ですが、米国のモルガンスタンレーに運用を外部委託しています。(実際の運用は、モルスタという意味です)グローバルな視点でクオリティの高い企業に投資をするコンセプトですが、ややグロースの色が強く、トラックレコードが短く、1年間程度のパフォーマンスですが、短期でも中期でも同種のファンドのパフォーマンスに劣後しています。短期で残高が大きく増加したのは、商品性の優位性よりも販売会社の営業努力が反映されているように感じます。
グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)(未来の世界(ESG))|ファンド情報|アセットマネジメントOne (am-one.co.jp)
今回の最後は、「ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配)」です。ピクテが運用しているグローバル株式のファンドです。毎月決算で毎月、分配をしています。基準価額が2,857円(5/19現在)、に対して、最近の分配金が毎月30円/年間360円の水準で、組み入れ銘柄の予想配当利回りが3.2%に対して、分配金利回り(年間分配金/基準価額)が12%を超えていることから、基準価額を犠牲にして分配しているタイプと判断できます。資産形成を目指している方には、無分配の方が好ましいですね。因みに、予想配当利回りベースでの毎月の分配金は、7.6円程度と推定できます。
その一方、パフォーマンスに関しては、公益株や電力株などに投資していることから、過去1年、どの期間でも相対的に優れたものになっています。マーケットが強気でグロース株優勢の局面では、パフォーマンスは他のファンドに劣後する可能性が高くなりますが、現在のような不安定な状況では、相対的に良いパフォーマンスが期待できます。
ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型) (pictet.co.jp)
アクティブファンドの評価は、ベンチマークに勝ったか、負けたかという点になるのですが、投資家目線では、ベンチマークに勝っていても、騰落率がマイナスだと満足できませんね。運用サイドと投資家サイドの目線の違いと言ってしまえば、そうなのですが、切ないところです。マーケットが大きく崩れている時に、オルタナティブ以外のファンドがプラスのリターンを確保することは困難ですからね。
いつものことですが、思ったよりも、紙面を使ってしまいました。
次回は、今回、触れることができなかったバランス型やREITに関してコメントしたいと思います。と言うことで来週は、「禁断の?個別の投資信託に関する私見その2」の予定とさせて頂きます。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
内容に関しましては、株式会社 Noble principleまでお問い合わせください。