前回に続いて、個別投資信託についてのコメントです。
純資産上位のインデックスとアクティブについてコメントさせて頂きましたので、今回は、残りのバランスファンドとREITを中心にお話をしたいと思います。以下は、前回同様、純資産の大きい順番の公募投資信託のランキングです。
2022年4月末現在で残高上位の投資信託は、以下の通りです。
- AB・米国成長株投信Dコース:1,646,693百万円
- eMAXIS Slim米国株式(S&P500):1,144,276百万円
- ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配):1,018,124百万円
- グローバルESGハイクオリティ成長株式:786,560百万円
- フィデリティ・USリートB:696,143百万円
- ダイワ・US-REIT(毎月決算)B:666,135百万円
- Net WIN GSテクノロジー株式ファンド:664,221百万円
- 投資のソムリエ:601,029百万円
- AB・米国成長株投信B:575,165百万円
- 楽天全米株式インデックスファンド:535,746百万円
5位と6位に米国REITの商品がランクインしています。
今回は、この2本と8位の「投資のソムリエ」についてコメントします。
まず、「フィデリティ・USリートB」ですが、こちらは、米国の運用会社フィリティが運用している米国不動産投信のファンドです。4月末基準価額:3,908円です。信託報酬は、1.54%で、やや高い印象です。直近分配金は、35円(年間:420円)で、分配金利回りは、約11%(420円/3,908円)となります。米国のリートの利回りは、3%との記載がありますので、大幅な過分配の分配方針と判断できます。累積の分配金が14,000円を超えており、再投資していれば17,000円から18,000円台の基準価額でしたね。また、同分類の投資信託の中ではパフォーマンスは、安定して良好な位置づけですが、後述する通り、資産形成を目指す方は、無分配タイプが好ましいと言えます。
フィデリティ・USリート・ファンド B(為替ヘッジなし) | 220002/F | 不動産投信 (fidelity.co.jp)
次に「ダイワ・US-REIT・オープン Bコース」ですが、大和アセットマネジメントが設定し。REITの運用は米国のコーヘン&スティアーズが行う米国不動産投信のファンドです。4月末時点の基準価額が2,914円。信託報酬は、1.67%、こちらもやや高い印象です。直近分配金は、30円(年間:360円)で、分配金利回りは約13%程度(360円/2,914円)です。組み入れ銘柄の配当利回りは、2.9%と月報に記載されていますから、こちらも大幅な過分配の分配方針です。過分配の場合は、基準価額を犠牲にして分配を行うため、結果的に基準価額の下落要因となります。分配水準の高いファンドの基準価額が低いのは、そのためです。パフォーマンスは、とりあえず、最近までは、良好だったと判断して良いと思います。また、フィデリティも同様ですが、従来型の不動産のみならず、データセンターの組み入れ比率が確保されているのも特徴としてあげられます。
ダイワ・US-REIT・オープン(毎月決算型) Bコース(為替ヘッジなし) / 大和アセットマネジメント株式会社 (daiwa-am.co.jp)
分配金が高いことに関する問題点としては、以下の点が考えられます。
- 投資家が仕組みなどを誤解する:基準価額を犠牲にして分配されていると思っていない
- 個別元本がわかったとしても取得した基準価額がわかりにくくなる
- 分配金を受け取ることで、実際の損益把握が難しくなる
- 分配金を受け取ることで満足し、実際のパフォーマンスに無関心になる
- 高い分配水準を維持するのが困難である
- 分配金引き下げリスクが常にある
- 運用効率が低下するケースがある
以前は、分配水準が高いと資金流入が大きくなる傾向があり、また、「分配金の水準が高いと良いファンドである」という誤解も多かったため、運用会社各社は積極的に分配水準を引き上げた経緯があります。その後、当局の資産形成に関するガイドラインなどの影響から、運用サイドも販売サイドもブレーキをかけ、少し落ち着いてきたのが現状だと私は認識しています。
基本的に良いファンドとは、「パフォーマンスが優れたものである」というのは、絶対的な事実であり、分配水準が高いファンドや分配金が高いファンドが優れているというのは誤解に他ありません。高齢者の方などで資産取り崩しを前提に投資されている場合は、その限りではありませんが、その場合でも、可能であれば、ETFや個別銘柄に投資してインカムを確保した方がコストの面で優位に感じますし、投資信託の中でも適切な分配水準を維持しているものも少なくなく、こちらの方が分配金の引き下げリスクが小さいと思います。
また、投資効率に関しては、基準価額が上昇トレンドの際は、分配金を受け取ることで効率が落ちてしまいます。一方、下落トレンドの際は、分配金を受け取ることで、下落が和らぎ、結果的に投資効率はマシになります。(マイナスが小さくなるという意味です)もっとも、下落を前提に投資することはありませんので、やはり、無分配の方が私は好感が持てます。
続いて、8位にバランス型の「投資のソムリエ」がランクインしています。このファンドは、アセットマネジメント・Oneが運用する商品で、内外の資産に投資することで安定したパフォーマンスを目指したバランス型ファンドです。
2022年4月末の基準価額は、11,341円です。信託報酬は、1.54%、実質的には、各パッシブファンドに投資しているスキームなので高く感じます。アロケーション変更(資産配分変更)に付加価値を置いていると理解しますが、それでも高い印象です。
このファンドは、安定したパフォーマンスを目指し、為替ヘッジを有効に活用することで、円高の影響を排除するという運用コンセプトで、半年に一回、決算を行い、直近の分配金は80円、累積で650円です。値上がりを含めた分配方針で、好感が持てます。
前述の通り、先進国債券に、為替ヘッジを行うことで円高の影響を排除し、リスク性資産と安定資産の配分を適宜、調整するという特徴があり、設定されてから、安定したパフォーマンスを維持していましたが、この1年は、米国の金利上昇、株安の影響、先進国債券に為替ヘッジをしていることで円安効果が限定的だったことなどがマイナスに働き、厳しいパフォーマンスとなっています。
円高の影響を排除するという運用コンセプトがこの半年から1年の期間は、裏目に出てしまった展開ですね。
前回もコメントしましたが、運用コンセプトを堅持することはファンドにとって、大事なことで、円安になったからコンセプトを変更してヘッジを行わないという施策は容易には、取れません。投資する段階で運用コンセプトが将来の投資環境にマッチしているか、どうかを判断する必要が投資家サイドにあると考えます。各投信の強みと弱み、言い換えると、どんな投資環境に強く、どのような局面に弱いのかを事前に把握しておきたいですね。「勿論、言うは易し」、ですけれど。
投資のソムリエ|ファンド情報|アセットマネジメントOne (am-one.co.jp)
余談ですが、証券会社の商品企画部で商品選定に関わり、運用会社の方の商品提案を受けた際、色々な意味で興味深いミーティングがありました。
例えば、話はアクティブファンドに戻りますが、株式ファンドの提案を受けた際、組み入れ銘柄の成功事例と背景を熱心にアピールされる運用会社の方が良くいらっしゃいました。そういった場合、私は、寧ろ「失敗事例を教えてください」と質問しました。どのような見通しで投資を行い、結果、どんな理由で損失確定したのかの方がFMの考え方やファンドの運用コンセプトが見えた気がしたものですから。残念ながら、即答できた方は限られていましたね。
意地悪ですね、改めて、思い出してみると。
もうひとつ、オマケに余談です。
米国人のFMとミーティングした際のお話です。
グローバル株式を運用している某大手外資のFMの方でしたが、「日本株で興味のある銘柄はあるのか?」と問うと、食品の「カルビー」との回答がありました。興味を引かれ、理由を尋ねたところ、「米国ではこのクオリティのポテトチップはあり得ない、素晴らしい!!」という回答でした。業績や企業戦略についてのコメントはありません。個人の嗜好をとやかく申し上げるつもりはありませんが、運用担当者として投資判断が適切かどうかという視点では疑問を感じざるを得ませんでした。当然ながら、当ファンドの採用は見送りました。
因みにカルビーは、話を聞いた当時以降、2015年から株価は下落トレンドが継続しています。
今回は、残高の多い3ファンドについてコメントしました。
他にも興味深いファンドで純資産が大きいものも幾つか、あるので、シツコイですが、次回も、「禁断の?個別の投資信託に関する私見3」でいきたいと思います。
引き続き、宜しくお願いします。
尚、このブログは、私見に基づいたものであり、個別商品を推奨するものはありません。また、あくまでも主観的な見解を述べており、個別商品や運用会社の優劣を決めつけるものでもありません。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
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