トータル・リターン検証 J-REIT、インフラファンド編

 

以前、ご紹介した高配当株投資のパフォーマンス検証のJ-REIT、インフラファンド版です。

 

このカテゴリーは、高利回りの銘柄が多いのですが、留意点も幾つかあります。

先にその点をご紹介しながら、パフォーマンスの検証をしたいと思います。

 

■スポンサーの顔(スポンサーの格付けなど)

 スポンサー(運営会社)に関しては、オペレーションに対する信頼や資金調達、ガバナンス体制、コンプライアンス体制などの点から、一定の知名度のある企業グループの方が好ましいと思います。資金調達面でもある程度、安心感があります。

 かつては、スポンサーの不動産企業が本体の不良債権をREITに移すことなども行われていたようです。もちろん、知名度があるから安心とも言えませんが、相対的には優位であると思います。

 

■配当(分配)の仕組みの違い

 株式の配当は、純利益から一定の割合(配当性向と言いますね)を配当することになりますが、REITやインフラファンドの場合は、導管性という制度により、収益の90%超を分配するなどの一定の条件を満たすと法人税がかかりません。言い換えると内部留保もほぼ、無く、収益の大部分が分配金として支払われます。

株式の評価尺度で言えば、配当性向が90%超ということになります。利益のほとんどを配当に回すという点で、ある意味、配当利回りが高くても当然ですね。逆に言うと、REITなどの投資法人の中で利回りの低い銘柄は、PER(株価収益率)という尺度では、同水準の株式と比較すると割高な水準の可能性があるとも考えられます。極論かもしれませんが、導管性による配当性向の前提の違いで、株式と投資法人を単純にPERや配当利回りという指標で比較するのは難しそうです。そもそも、投資法人を評価する尺度にPERという概念が妥当かどうかも議論の余地がありそうですが、

 

■増資のリスク

 上記の通り、基本的に内部留保がないため、新たな物件取得のためには、増資が必要になります。個々の増資の評価は、物件取得により価値が向上するかどうかに依存しますが、短期的には、需給が悪化するという点から株価にネガティブな影響を及ぼします。過去の増資を見てみると決算月に行われるケースが多い印象です。長期投資の方は、特段、気にしなくても良いと思いますし、場合によっては、増資に対し申込みを行っても良いかもしれませんが、短期的な投資の場合は、株価が上がりにくくなりますので、要注意ですね。

 

■自然災害リスクなど

 REITもインフラファンドも共に自然災害リスクを認識しておく必要があります。REITは、首都圏に物件が多く、インフラファンドは九州地方などに多く投資先があります。これらが、地震や噴火、洪水などによる影響で投資先の施設が損害を被る可能性は常にあります。一方、REITには空室リスクがある反面、インフラファンドには空室リスクはありませんが、売電価格の変更などのリスクが存在しま す。根本的なリスクとしては、我が国は人口減少という避けがたい事実があり、優良物件に投資する前提とは言え、不動産全般にはババ抜き的な側面があることは、肝に銘じておきたいところです。

 

■金利上昇リスク

 インフレに伴い、実物資産である不動産が値上がりしやすいという一面がある一方、賃料などのキャッシュフローに対する割引率上昇によって、現在価が減価し、投資法人の評価が下がる可能性もあります。借り入れに対する支払い利息の増加などによって、収益悪化の可能性も理解しておきたいところです。

 

それでは、2017年年初に投資し、2021年年末(5年間)の投資法人の価格の評価損益とその間の配当総額を考慮したトータル・リターンをご紹介します。(NISAの投資期間も考慮しています)

 

尚、上場後、5年経過していないケースやスポンサーの顔が今ひとつ(独断です)のものを除外し、私見に基づいて各運用資産の銘柄をピックアップしています。

算出した企業群は、順不同で以下の通りです。

 

 

8951      日本ビルファンド                  オフィスビル

3269      アドバンスレジデンス投資法人       住居

3283      日本プロロジス投資法人                  物流

3287      星野リゾート投資法人                     ホテル

3471      三井不動産ロジスティクス              物流

3472      大江戸温リート投資法人                  ホテル

3292      イオンREIT投資法人                      商業施設

8964      フロンティア不動産投資法人           商業施設

8968      福岡リート投資法人                         総合

8977      阪急阪神リート投資法人                  総合

9281      タカラレーベンインフラ投資法人    インフラ

9284      カナディアンソーラー                     インフラ

 

さて、パフォーマンスの結果はどうでしょうか?

あわせて、以前、ご紹介した株式のトータル・リターンの表もご紹介します。

 

 

【J-REIT、インフラファンド トータル・リターン比較】 ※赤のフォントがマイナスです。

コード 銘柄 2017年始値 2021年終値 含み損益 配当総額 トータルリターン 投資収益率 年間平均収益率
3471 三井不動産ロジスティクス 332,500 645,000 312,500 63,200 375,700 113.0% 22.6%
3283 日本プロロジス投資法人 239,500 407,000 167,500 45,539 213,039 89.0% 17.8%
9284 カナディアンソーラー 95,000 122,700 27,700 24,350 52,050 54.8% 11.0%
3292 イオンREIT投資法人 128,000 161,100 33,100 30,679 63,779 49.8% 10.0%
3269 アドバンスレジデンス投資法人 305,500 380,000 74,500 54,359 128,859 42.2% 8.4%
9281 タカラレーベンインフラ投資法人 105,500 110,800 5,300 35,884 41,184 39.0% 7.8%
8977 阪急阪神リート投資法人 147,200 158,400 11,200 29,732 40,932 27.8% 5.6%
3287 星野リゾート投資法人 615,000 653,000 38,000 118,531 156,531 25.5% 5.1%
8951 日本ビルファンド 642,000 670,000 28,000 105,521 133,521 20.8% 4.2%
8964 フロンティア不動産投資法人 498,500 497,000 -1,500 103,524 102,024 20.5% 4.1%
3472 大江戸温リート投資法人 81,100 71,500 -9,600 21,301 11,701 14.4% 2.9%
8968 福岡リート投資法人 185,100 166,800 -18,300 35,060 16,760 9.1% 1.8%
平均 42.1% 8.4%

 

 

【高配当株トータル・リターン比較】

コード 銘柄 2017年始値 2021年終値 含み損益 配当総額 トータルリターン 投資収益率 年間平均収益率
9101 日本郵船 2,210 8,760 6,550 290 6,840 309.5% 61.9%
8473 SBI 1,510 3,135 1,625 455 2,080 137.7% 27.5%
7203 トヨタ 1,402 2,106 704 1,110 1,814 129.4% 25.9%
8031 三井物産 1,618 2,724 1,106 370 1,476 91.2% 18.2%
1911 住友林業 1,557 2,226 669 235 904 58.1% 11.6%
8766 東京海上 4,949 6,392 1,443 1,010 2,453 49.6% 9.9%
8591 オリックス 1,845 2,348 503 348 851 46.1% 9.2%
8053 住友商事 1,400 1,701 301 337 638 45.5% 9.1%
5108 ブリヂストン 4,298 4,949 651 750 1,401 32.6% 6.5%
9433 KDDI 2,960 3,362 402 515 917 31.0% 6.2%
8316 三井住友FG 4,549 3,943 -606 880 274 6.0% 1.2%
7751 キャノン 3,360 2,801 -559 660 101 3.0% 0.6%
5411 JFE 1,816 1,467 -349 235 -114 -6.3% -1.3%
7182 ゆうちょ銀行 1,413 1,055 -358 250 -108 -7.6% -1.5%
4502 武田 4,888 3,137 -1,751 900 -851 -17.4% -3.5%
6178 日本郵政 1,465 897 -568 257 -311 -21.2% -4.2%
2914 JT 3,882 2,102 -1,780 598 -1,182 -30.4% -6.1%
平均 50.4% 10.1%

 

結果的には、J-REIT、インフラファンドのJ12銘柄でトータル・リターンがマイナスのものはありませんでした。

また、5年間保有で含み損の銘柄が3銘柄ありましたが、配当でカバーできています。

 

高配当の株式のトータル・リターンと比較すると、

 

■トータル・リターンでマイナスの銘柄がなかったこと

■含み損でも、配当でカバーできたこと

■銘柄間の当たり外れが小さいこと

■セクターによっては、かなり値上がりしたこと

■値下がりのケースでも小幅だったこと

 

などの特徴が指摘できると思います。(もちろん、今後、スポンサーの破綻や大災害が発生した場合はこの限りではありません)

 

総論として、順調なパフォーマンスでしたが、コロナの影響がプラスに働いたセクターとマイナスに働いたセクターがはっきりした対象期間でした。プラスに関しては、追い風参考ながら、物流関連REITのパフォーマンスが群を抜いていました。宅配やネットショッピングのニーズがより高まることで、物流施設自体のニーズが高まり、投資法人の値上がりにつながりました。

マイナスの影響があったセクターは、商業施設やホテル系REITです。パフォーマンスを分解すると、減配があった時期もあり厳しい運営環境下でしたが、一定のトータル・リターンが確保されました。オフィス系も在宅勤務の定着から、空室率が上昇したケースもあったと思われます。

 

インフラファンドに関しては、対象期間の5年間というトラックレコードを満たさないものがあったため、比較した銘柄は少ないですが、パフォーマンスは好調でした。J-REITを投資対象とする投資信託は以前から存在し、人気商品だった時期もあります。インフラファンドは、投資対象が少なく、時価総額も小さいことから、投資対象とする投資信託は見当たりませんでしたが、最近は、新規設定されるケースもちらほら、出てきました。資金流入が増加するとインフラファンドにも追い風になってきますね。

 

 

予想分配金をベースとした利回りですが、REITに関してはホテルを除いて、3%程度から5.5%程度の範囲、インフラファンドに関しては、5%程度から6.5%程度の範囲になっています。

 

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REIT、インフラファンドも共に価格変動が株式よりも小さめな傾向で、インカムが一定水準以上あるので、過熱感のないタイミングの投資であれば、好ましいリターンが期待できるアセットクラスだと思います。また、新たな取り組みとしては、国内のREITにもデータセンターなどを組み入れるケースが出てきました。個人的には、有料道路やスポーツ施設などを組み入れる投資法人などがあれば、より一層、投資対象が多様化して魅力が高まるように感じています。

 

配当収入を重視される方にとっては、検討余地のある資産ですね。

 

次回は、「改めて、転職について考えてみる」の予定です。

最近、マーケットが混乱しています。それを踏まえ、状況によっては、テーマが変わる可能性があります。

 

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