利上げする国、利上げしない国

グローバルなインフレに伴い、各国で利上げが相次いでいます。

基軸通貨国の米国の利上げに伴い、為替の影響を考慮しての判断だと思います。

 

今回は、インフレと利上げ、為替に関連して現状を整理したいと思います。

 

各国の中央銀行の目的は、「物価の安定」と「安定した経済成長」という二本柱です

どの国もグローバル経済の中で貿易が欠かせない以上、為替も間接的に物価や経済成長に影響を及ぼす重要な要素となります。

 

やや、専門的ですが、為替に関しては、「国際金融のトリレンマ」という理論があり、「自由な資本移動」、「為替相場の安定性」、「金融政策の独立性」という3つを同時に達成することはできず、このうち2つの目標しか選択できないというものです。言い方を変えると、何かは、諦めなければいけないということです。

 

日本の場合は、「自由な資本移動」と「金融政策の安定性」を選択し、「為替相場の安定性」を放棄しています。つまり、変動為替相場制度になっています。

香港ドルの場合は、「自由な資本移動」と「為替相場の安定性」を選択し、「金融政策の独立性」を放棄しています。つまり、為替は、ほぼ、米ドルに連動する一方、自国の経済動向にかかわらず、基軸通貨国の米国の金融政策に足並みを揃えることを選択したことになります。

最後の「為替相場の安定性」と「金融政策の独立性」を選んで、「自由な資本移動」を犠牲にするパターンは、ひと頃の中国人民元が該当すると思います。

 

 

■それでは、米国(基軸通貨国)が利上げするとどんな影響が考えられるのでしょう?

 

○資金が米国に環流し、通貨安になる(過去の新興国の通貨危機はこのパターンが多いです)

 

■通貨安になると?

○輸入物価上昇によるインフレ加速(貿易収支が赤字の国は顕著です)

○外貨建て負債の増大(外貨建て負債がある場合)

○経常収支の悪化(ケースバイケースですが)

○インフレの影響で、結果的に政情不安や治安の悪化につながるケースもあります。

 

そのため、通貨安をある程度、緩和するために各国は、自国の事情に関わらず(多少の苦痛を我慢して)、利上げする傾向が強くなります。

 

ご存じの通り、7/28にFOMCは、0.75%の連続利上げを実施しました。全くの私見ですが、「米国は他国の事情を考慮して金融政策を決定しない」という認識があります。かつての新興国の通貨危機の際も、基本的に自国優先の政策だった記憶があります。

 

以下に昨年末と現在(2022年7月2/日現在)の昨年末対比の各国政策金利の変化を紹介します。政策金利を引き上げた国は、以下の通りです。

 

(基軸通貨国)

■米国:0.25%→2.50%

 

(先進国)

■英国:0.25%→1.25%

■ユーロ:0.0%→0.5%

■カナダ;0.25%→2.5%

■オーストラリア:0.1%→1.35%

■ニュージーランド:0.75%→2.5%

 

(新興国)

■メキシコ:5.5%→7.75%

■ブラジル:9.25%→13.25%

■インド:4.0%→4.9%

■南アフリカ:3.75%→4.75%

■韓国:1.0%→2.25%

 

一方、政策金利を変更していない国は、

 

▲トルコ:14.0%→14.0%

▲日本:▲0.1%→▲0.1%

 

最近までは、ユーロ(ECB)も、利上げしない国のお仲間でしたが、先日の決定会合で11年ぶりの利上げを決定しました。補足ですが、トルコの場合は、エルドアン大統領が中央銀行の金融政策に大きい影響力を持っていることから、中央銀行の中立性や独立性という面で課題があると思われており、ある特殊性を考慮する必要があると思います。

 

次に各国の対円の年初来のパフォーマンスを紹介します。2022年7月26日現在です。

(数値が大きい方が現地通貨高/円安です)

 

(先進国)

■米ドル:18.66%

■カナダドル:16.71%

■オーストラリアドル:13.64%

■ニュージーランドドル:8.86%

■ユーロ:6.70%

■英国ポンド:5.69%

 

(新興国)

■ブラジルレアル:23.4%

■メキシコペソ:18.86%

■南アフリカランド:13.09%

■インドルピー:10.93%

■韓国ウォン:7.76%

■トルコリラ:▲11.19%

 

対円の騰落率を見ると、トルコリラだけが下落していますが、他の通貨は全て、上昇しています。日本の貿易対象国も多く、通貨安が輸入インフレにつながっている経路の一部が見えてきます。

 

一方、各国通貨を対米ドルで見ると、概ね、米ドル高が進展していますが、政策金利を引き上げた通貨と引き上げない通貨では、通貨安のレベルに違いが見られます。多少なりとも、金利引き上げが通貨安の歯止めになっている印象です。

 

日本の場合は、輸出企業が外貨を獲得することで貿易収支の黒字国として、通貨安がプラスに働く構図が続いてきました。しかし、最近では、生産拠点のグローバル化や原材料価格上昇や素材価格上昇で、貿易赤字が続いています。マクロの視点で見ると、通貨安のメリットが剥落し、デメリットが大きくなってきたと推測します。

 

勝手な私見ですが、日本銀行は、利上げをすることで、景気に悪影響を及ぼすことが主因で利上げを見送っていますが、実は、国債の利払いや借り換えに悪影響が出てくることも要因のひとつになっているように感じています。仮に利上げしても、円安阻止のプラスの影響は不確定で、デメリットは確定的であるならば、利上げしないという背景も理解できなくはありません。利上げには苦痛が伴いますが、今後、景気悪化が生じた際に、利下げをする選択肢を得ることが可能となります。我が国の場合、金融緩和のおかげで今の景気が維持できていると考えるのか、金融緩和したのに効果が限定的だったと考えるか、解釈は様々ですが、金融緩和に当局も市場も企業も慣れて、麻痺してきているようにも感じています。

近い将来、米国の景況感が悪化することで利上げ停止、場合によっては利下げに転じる可能性もあり、その際には、金利差による円安に歯止めがかかると当局が考えている可能性もありますね。

 

幸い、現状、我が国は、外貨建ての借り入れがありませんから、通貨安で国家の負債が膨らむことはありませんが、イールド・カーブ・コントロールなどの無理な金融政策を維持することで、様々な矛盾が膨らんできているようにも感じます。「日本銀行は政府の子会社」というような政治家の方の発言も金融政策の独立性に疑念を抱かれかねません。日本銀行の保有する日本国債の比率が約50%となっているのも、財政規律の面から不健康な状態との印象を持ちます。金利が上昇することで、無駄な国債の発行にブレーキがかかり、財政規律が維持されるという経済原則が軽視されているようにも感じています。

仮に何らかの事情で、円金利が上昇した際には、保有している日本国債の含み損が莫大となり、通貨に対する信認にも影響が及ぶ可能性も考えられます。

 

現在は、金利差による円安ですが、通貨の信認に懸念が生じた結果の通貨安は、歯止めが効かないことも考えられるため、現状の金融政策に憂慮を感じています。

利上げと為替の関係から、論点が脱線してしまいました。金融政策も重要な視点ということなので、ご容赦ください。

 

 

次回は、「(勝手な妄想)、2020年後半の投資戦略」の予定です。

 

当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。

内容やご相談に関しましては、株式会社 Noble principleまでお問い合わせください。