昨年、米国ではインフレ率が上昇し、FRBは政策金利を引き上げました。その結果、株式は低迷を余儀なくされました。今回は、それらを踏まえ、金利と株価の関係についてコメントしたいと思います。やや難解な部分もありますが、読み飛ばしてください。
私が社会人になった頃、「金利が上昇すると株価は何故下がる?」という質問を受けたことがありました。その際に、以下のような回答をした記憶があります。「預金金利や債券の利回りが上昇することで、相対的に株式の魅力が減じること、また、借り入れのある企業の場合、支払利息が増加し業績にマイナスの影響が及ぶことなどが背景です」と。
今、振り返ってみると、的外れな回答とは思いませんが、100点満点ならば、30点から40点位の水準かと感じます。当時は、まだ、後述する割引率に基づいた株価評価が一般的ではなかったと記憶しますが、その後、株価評価の理論が形成されてきました。今回は、できるだけ、簡易に代表的なモデルを使って説明したいと思います。
【配当割引モデル】
企業の配当と期待収益率の関係から、株価を評価するものです。
期待収益率は、投資家が企業に求めるリターンで、金利上昇によって高まると考えられます。
(株価)=(将来の配当額)/(投資家の期待収益率)
尚、正確には、投資家の期待収益率を数式で表現すると、(1+期待収益率)ということです。
5%の期待収益率の場合は、1.05で除することとなります。
この式から見えるのは、将来の配当額が一定であっても、金利上昇により期待収益率がアップすることで株価は下落する公算が高くなることです。もちろん、期待収益率以上に将来の配当額が増加すれば、株価上昇も考えられますけれど、
数式で言えば、分母が大きくなるということですね。
置き換えると、以下の関係になります。
金利↑⇒(将来の配当額)/(投資家の期待収益率)↑⇒(株価)↓
【定率配当割引モデル】
では、連続増配企業のように配当が増えているケースではどうでしょうか?
以下は、将来、一定の割合で配当が増額されることを前提に考える「定率成長配当割引モデル」です。
(株価)=(一年後の配当額)/((投資家の期待収益率)-(配当成長率))
このモデルは、期待収益率>配当成長率であり、且つ、配当成長率がゼロ以上という前提があります。金利との関係で見ると、金利上昇による期待収益率上昇があっても配当成長率が高ければ、それをある程度カバーし、場合によっては、金利上昇の影響を排除できるかもしれないと解釈できます。
高配当株を債券と同様に考えた場合(配当を固定クーポンと同様と考え、金利変動によって債券価格の代わりに株価が変動するという解釈です)、債券の場合は、金利上昇の際には価格は下落します。信用力やイールドカーブの変化などがなければ、例外なく下落します。高配当株に置き換えても、同様のケースが考えられます。株価下落によって、配当利回りが上昇し、金利上昇した債券との見合いで相対的に魅力があれば下げ止まりますが、金利上昇が続くとやはり、株価にはネガティブに働きますね。
【割引現在価値法】
のモデルは、DCF(割引現在価値)法と呼ばれる手法で、M&A(企業買収)や投資用不動産の評価にも活用されているものです。将来に渡って、CF(キャッシュフロー)が生じるような資産の算定に向いていると言われています。もちろん、絶対的な評価な訳では無く、他の評価方法と併せて、価値を推定してゆくアプローチです。
(株価)=Σ(将来に渡るキャッシュフロー)/(1+r)^n
だんだん、ややこしくなってきましたね。
将来に渡るCFを現在価値で評価するためには、rの割引率を使います。
これは、加重平均資本コスト(資本と負債のコストを加重平均したもの)であり、金利が上昇すると高くなります。(背景は、複雑なので詳細は割愛します)この場合、分母が大きくなるため、株価評価にはネガティブに働きます。もっとも、CFの伸びが割引率の上昇率を上回れば、この限りではありませんが、
逆にCFが一定で割引率が上昇すると、金利上昇分は評価にマイナスに働きます。
尚、将来のCFをどのように捉えるか、割引率の水準はどの程度が適切か、などの前提条件の置き方や解釈は、なかなか難しく、人によって異なる評価になるケースが少なくありません。
このモデルを前提に考えると、インフレ時に不動産が選好されるケースや不動産価格が上昇するケースが多いのは、賃料の上昇が割引率の上昇を上回ると期待されているからと推測します。もちろん、貨幣価値が落ちるので、実物資産が選好されるという面もありますが、
単純化して株式にあてはめると、以下の式がイメージできます。
(株価)=(企業の利益)/(加重平均資本コスト)
金利が上昇すると前述の通り、加重平均資本コストも上昇するため、資産価格にマイナスの影響が出てきます。また、金利低下すると割引率も低下するため、資産価格にプラスに働きます。また、資産価格に対するインパクトは大きくなくても、借り入れが大きい企業の場合、支払い利息が大きくなり、利益水準を圧迫することも考えられます。これは、損益計算書、企業決算ベースの話ですね。
バリュー株と呼ばれる割安株は、成長期待はあまり高くありませんが、利益水準は安定しているケース多く、グロース株の場合は、現状の利益はいまひとつでも将来に向けての成長期待で株価が評価されることが多くあります。金利上昇局面では、どうしてもグロース株の割高感が目立ってきます。割引率から利益の成長率を引くことで修正するアプローチもありますが、足下の利益水準が必ずしも高くない企業の場合、金利上昇の影響を受けやすい傾向は否めませんね。相対的に、金利上昇局面では、バリュー株の方が堅調なケースが多いように思います。一般的にグロース株の割引率が高くなる傾向があることを付け加えておきます。
実際のところ、米国のNASDAQ市場が活況で、株価上昇が目立つ時期は、金利低下局面や低金利局面が多かったです。FRBなどの中央銀行が資金供給を積極的に行い、資金がだぶつくという背景もありますけれど、
昨年の年末、日本銀行が決定会合で緩和修正を行い、銀行を始めとする金融株が上昇しました。これは、どのように解釈すれば良いでしょうか?
上記のモデルの通り、割引率が上昇するので基本的には資産価格に対してネガティブですが、銀行の場合は、預金を融資に回すオペレーションを行います。短期金利水準の預金で資金を確保し、長期金利に連動する融資を行うということです。短期調達、長期運用とも言われています。
最近まで、日本国内では、長期金利と短期金利のスプレッド(差)が、ほとんど無い状態が続いていました。言い換えると、預金を融資に回しても収益があまり、見込めない環境でした。決定会合の後、長期金利の上昇が見込まれることで長短スプレッド拡大により、銀行の収益改善が見込めるという期待が高まりました。もちろん、内外の国債に投資している金融機関も多いため、金利上昇で債券に含み損や実現損が発生することも考えられますが、それ以上に長期的に収益構造が安定するという捉え方がされていたように思います。
このケースは、分子の企業利益の伸びが分母の割引率の伸びを上回ると判断された結果だと感じています。
最後に、今回のテーマを簡潔な式で表すと、以下のようになります。
金利↑⇒(企業の利益)/(加重平均資本コスト↑)⇒(株価)↓
ファイナンス(財務理論)の世界では、資産価格の算定では、分子である将来のキャッシュフローを分母の割引率で除するというアプローチが主流で、金利上昇によって割引率が上昇することで、資産の現在価値が減じるということになります。もちろん、資産評価には様々なアプローチがありますが、機関投資家などのプロの世界ではこのような解釈が一般的です。
このような考え方の投資家がいることを知っておくことも無駄ではないと思います。
次回は、「証券会社の株価レーディングについて思うこと」の予定です。
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