最近、あまり、話題にのぼらなくなったヘッジファンドですが、こちらに関してコメントしてみます。株式市場での主要プレーヤーのひとつであり、特徴を把握することは有用だと思います。
以前、商社系証券会社でヘッジファンドに携わった経験を踏まえ、私見を述べます。
一般的なヘッジファンドへの印象というのは、激しい取引を行い、凄いパフォーマンスを上げる運用というものではないでしょうか?
実際、ヘッジファンドは、様々な運用手法があり、収益機会も様々です。
但し、基本的には、「ヘッジ」という言葉の通り、大きな収益を目指すというよりは、伝統的な資産運用(株式運用や債券運用)のヘッジという位置づけが主体とされています。
年金や金融機関もオルタナティブ投資(代替投資)という位置づけで、年々、ヘッジファンドへの投資ニーズが高まってきています。伝統的資産(株式や債券)と異なる絶対収益型の運用となります。
例えば、伝統的資産の株式運用では、TOPIXやS&P500がベンチマークとなり、相対的にパフォーマンスを上回るかどうかがポイントとなります。負けていても、ベンチマークを上回っていれば評価されるという考え方です。仮に投資信託の基準価額が大きく下落していても、相対的に優れていたと言われたら、釈然としませんけどね。
一方、ヘッジファンドの場合は、以前のLIBOR(ロンドンの銀行間取引の金利)を300b.p.(3%のことです)を上回るかどうかというような評価基準となります。市場環境がどうであれ、一定水準以上のパフォーマンスを出すことが求められます。
報酬体系も投資信託と異なり、信託報酬に該当するマネジメントフィーは、2%とか、3%という高い水準です。それに加えて、成功報酬(パフォーマンスフィーと言います)もかかるケースが多く、リターンの20%相当分とか、LIBORを上回った分の20%という報酬がかかってきます。
今年前半の株式市場は調子が良かったので、ヘッジファンドのパフォーマンスは、伝統的資産のパフォーマンスを下回ったケースが多いのでは?と推測します。基本的にショート(売建て)のポジションを持てば、上昇相場に乗ったロングオンリー(投資信託などの買建てのみの運用)にはかないませんからね。
それでは、具体的な運用戦略の一部を簡潔に紹介してみます。
■FI(フィックスド・インカム):金利のイールドカーブのゆがみなどに着目する債券での投資手法
■M&Aアービトラージ:企業買収の際、被買収企業の株を買い、買収企業の株を売る裁定取引を主とする投資手法
■グローバルマクロ:マクロ経済分析に基づき、為替や株式、コモディティなど幅広い資産を対象に売買する投資手法
■CTA:株式、コモディティなどの先物取引主体のトレンド追随型の運用手法
■株式マーケットニュートラル:個別株式を買い、同等の先物を売ることで、個別株要因だけを獲得する運用手法
■株式ロングショート:個別株を買い、個別株または指数の先物を売る運用手法
最後に紹介した株式ロングショートについて、触れてみたいと思います。
日本の株式市場でも実際に取引がされています。
個別株投資を行っていると、時に意味不明な買い注文や売り注文を見かけることがあります。アルゴリズム取引という機械的な取引のケースが多いようですが、ヘッジファンドの影を感じることもあります。
外資系や日系大手証券の空売りの手口を調べると個別株を空売りしているケースがあります。それらの証券会社の自己売買部門(プロップとも言います)の運用であるとも考えられますが、実は、背景にヘッジファンドの存在があり、それらの注文のケースも少なくないように思います。
やや、専門的になりますが、個人投資家が株式を空売りする場合、信用取引の仕組みに依存します。日証金から株式を借りて空売りが可能になり、お金を借りることで信用取引の買い付けが可能となります。
ヘッジファンドの場合は仕組みが異なり、プライムブローカーと呼ばれる証券会社が株式を調達し、その株式で空売り(ショート)することになります。そもそも、その株式の調達は機関投資家が保有しているケースがほとんどです。従って、日証金の空売りの計上には含まれません。
とは言え、個人投資家であれ、ヘッジファンドであれ、空売りした場合、買い戻すことが必要になります。突然、急騰する銘柄の背景には、ヘッジファンドの買い戻しのケースも考えられますね。
また、運用会社や年金の資金は、長期投資の傾向があり、株式の発注も株価に影響を与えないよう、慎重なスタイルが多い印象です。一方、一部のヘッジファンドなどは、短期志向で敢えて、株価にインパクトのある発注方法をとっているケースもあると感じます。
前述の通り、絶対収益を目指す以上、空売り(ショートポジション)も必要になります。
株式ロングショートの場合、例えば、同一業種で魅力的な銘柄を買建て、過大評価、または、問題があるような銘柄を売り建てるような運用手法をとります。日経平均が上がっても、下がっても、良い銘柄の株価は上がりやすくて下がりにくい、逆にいまいち銘柄の場合は、上がりにくくて、下がりやすいという特徴を運用に活用するということですね。
もちろん、国内の同一業種に限った話ではありませんし、場合によっては、国をまたいだロングショートもありますね。たとえ話に過ぎませんが、テスラをロング、トヨタをショートという感じです。売建てに関しては、先物で代用するケースも少なくありません。
最近、アジアのヘッジファンドの解散が報じられました。香港上場の中国株をロング(買建て)、日本株をショート(売建て)して、失敗したようです。
また、ロングショートに類似する運用手法で、マーケットニュートラルと言うものもあります。良い銘柄で通常のポートフォリオを組み、同一金額や同一ベータ値(リスク評価の指標です)の先物ショート(売建て)を加えることで、市場全体の上下を排除し、基本的に投資した銘柄と指数との差を収益の源泉とする手法です。
市場の連動性はベータと呼ばれ、上記の個別株要因は、アルファと呼ばれます。
優れたポートフォリオは市場を上回るという前提で、それであれば、指数先物でショート(売建て)することで、市場全体の上下の影響(ベータ)を排除することができます。ベータを排除して、アルファの獲得を目指すという戦略です。
ヘッジファンドは、怖いもの、不気味なものという印象がもたれがちですが、年金や金融法人なども運用の一部に組入れています。個人向けの投資信託にも、ヘッジファンドに近いアプローチの運用を取り入れているケースがありますね。但し、個人的な見解ですが、毎日、設定解約がある制約からか、満足できるパフォーマンスのものが少ないように思います。
機関投資家向けのヘッジファンドは、設定解約が半年に一回とか、四半期に一回とか、月に一回とかの制約があり、運用サイドからすると、安定した運用資金の確保ができるメリットがあります。安定したパフォーマンスを維持するため、運用資産に上限が設けられるケースが多く、優れたファンドに投資することは難しいケースが多くあります。
逆に考えると、一般投資家の方に、「凄いファンドを紹介する」という話は、眉唾と思った方が良いと思います。ヘッジファンドに限りませんが、おいしい話は、出回りませんからね。
次回は、「投資格言 節分天井、彼岸底」の予定です。
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