「トータルリターンの考え方」

 

 1月27日の早朝、FOMC(連邦公開市場委員会)で、米国の利上げスタンスの明確化、資産縮小の方向が明らかになりました。当日の現地の金融マーケットは、乱高下の後、ややネガティブな受け止め方をしたようですが、市場のトレンド(評価)が見えてくるのは、来週以降になるように感じています。とりあえず、年初の第一関門は過ぎたという印象です。ただ、ウクライナや台湾の地政学リスクも忘れてはいけないところですね。加えて、米国の景況感が下向きなのも気になるところです。

 

上記の通り、米国の利上げ観測などから内外とも金融マーケットが不安定になってきています。キャピタルゲイン獲得が難しい環境下で、今回は、配当を含めたインカム収入に着目したいと思います。

 

トータルリターンという言葉をご存じでしょうか?

 

リターンには、値上がり損益の「キャピタルリターン」と配当等収益の「インカムリターン」のふたつがありますが、トータルリターンはその両方の合算となります。仮にキャピタルリターンがマイナスであっても、インカムリターンとの合計がプラスであれば、投資成果としてプラスになるので、「投資成果があって良かった」ということです。どちらもプラスが一番ですけどね。

 

長期投資の場合、特にトータルリターンの考え方が重要になると思います。(累積された配当等収益のウエイトが高くなるため、最終的な損益に影響を与えるので)

尚、キャピタルリターンとキャピタルゲイン、インカムも同様は、ほぼ同義語と思ってください。

 

基本的にインカムゲインは、マイナスになることはありませんので、以下の関係があります。

 

 

  • トータルリターン▲=キャピタルリターン▲>インカムリターン○
  • トータルリターン□(変わらず)=キャピタルリターン▲=インカムリターン○
  • トータルリターン○=キャピタルリターン▲<インカムリターン○
  • トータルリターン○=キャピタルリターン○+インカムリターン○ →これが一番良いですね

 

 

これらを踏まえ、日本株を例に具体的なケースを見てみましょう。

日本株式で、比較的高配当とされている武田、JT(日本たばこ産業)、三井物産の3銘柄を取り上げてみます。銘柄選択に意図はありません。

 

「売却するまでは損失が確定しない」、「配当があるから良いのだ」という意見も拝見しますが、具体的な数値を見ることと期間損失や含み損益が生じているケースがあることを確認してみたいと思います。

 

尚、年間配当は税引き前の数値とします。

 

【株式のケース】(各種資料よりNoble Principleが作成)

 

4502 武田

 

始値(円) 終値(円) 年間配当(円) 年間トータルリターン(円) 年間収益率
2017 4,888 6,401 180 1,693 34.6%
2018 6,500 3,705 180 -2,615 -40.2%
2019 3,620 4,332 180 892 24.6%
2020 4,297 3,755 180 -362 -8.4%
2021 3,770 3,137 180 -453 -12.0%

 

表の見方ですが、

左から各年、年初の始値、年末終値、年間配当、配当と株価の含み損益を加味したトータルリターン、その収益率です。

 

2017年は、年間配当180円と株価の値上がりでトータル1,693円のリターンがあり、年初の株価に対して、配当を考慮後34.6%のトータルリターンが出たことを意味します。

2017年と2019年のトータルリターンはプラスなのですが、その他の年はマイナスで、特に2018年は、配当を考慮しても40%を超える大きなマイナスのリターンとなりました。

 

尚、2017年年初に投資し、2021年年末まで保有した場合、株価で▲1,751円、受け取った配当が900円でトータル▲851円となり、トータルリターンの収益率が▲17.4%と残念な結果となりました。

 

 

続いて、

2914 JTです。

 

始値(円) 終値(円) 年間配当(円) 年間トータルリターン 年間収益率
2017 3882 3631 140 -111 -2.9%
2018 3640 2616.5 150 -874 -24.0%
2019 2566.5 2432.5 154 20 0.8%
2020 2400 2102 154 -144 -6.0%

 

JTは、12月決算のため、期間が武田と異なっていますが、ご容赦ください。

この銘柄は、年間トータルリターンがプラスになった年が2019年だけで、この期間の投資成果は厳しいものとなりました。武田と同様に2017年年初に投資し、配当を受け取った場合、株価で▲1,780円、受け取った配当が598円でトータル▲1,182円となり、トータルリターン収益率が▲30.4%となっています。尚、JTは、株主優待がありますが考慮していません。

 

 

続いて、

8031 三井物産です。

 

始値(円) 終値(円) 年間配当

(円)

年間トータルリターン 年間収益率
2017 1618 1832 55 269 16.6%
2018 1855 1690.5 70 -95 -5.1%
2019 1650.5 1946 80 376 22.8%
2020 1945 1889.5 80 25 1.3%
2021 1892.5 2723.5 85 916 48.4%

 

この銘柄は、2018年にマイナスのトータルリターンになりましたが、他の年はプラスのリターンです。株価自体も上昇が続いており、結果的には、配当を得ながら大きな含み益を確保できた成功例となりました。2017年年初に投資し、配当を受け取った場合、株価で+1,105円、受け取った配当が370円でトータル+1,475.5円となり、トータルリターンの収益率が+91.2%となっています。

 

 

このような事例(限られた事例ですが)を見ると、長期保有すれば良いというものでも無いのが見えてきます。過去にも盤石の経営体制と思われていた東京電力が東日本震災で大きなダメージを受けたことがありました。配当利回りが高い銘柄は、NISAでも人気のようですが、結果的に含み損が大きくなるケースも少なくありません。

 

利益の成長率(特に営業利益)や配当性向(配当の純利益に占める比率、但し、高ければ良いというものではありません)などのチェックも欠かせませんね。

とは言え、配当収入が、株価下落のクッションになっていることは事実だと思います。

 

配当を受け取るためには、決算月の権利付き最終日に株式を保有している必要があり、翌営業日の権利落ち日には、配当分下落した水準から株式の取引がスタートします。配当相当額以上に株価が上昇するケースもあれば、配当落ち以上に下落するケースもあります。一つの考え方として、売却損であっても、配当相当額の方が大きければ、「OK」と捉えるアプローチもあるのかもしれません。冒頭の③のケースです。

 

また、分配型投資信託の場合は、分配金が「特別分配金」であれば、含み損の状態である可能性が高く、また、個別元本の数値が時価を下回っていれば、含み損の状態であると言えます。分配金を受け取っていても、トータルリターンでマイナスになっていれば、残念な状況ですね。

 

人間の心理として、目に見える「配当」や「分配金」、「株主優待」を優先しがちですが、資産形成という面では、トータルリターンを意識していきたいところです。

 

やや専門的になりますが、配当を受け取るには税金がかかります。その一方、企業の自社株買いの場合は、配当課税はかかりません。企業が自社株買いを実施することで、発行済み株式数が減少し、EPS(一株あたり利益)やROE(株主資本利益率)の向上を通じて、株価の上昇が期待されるという視点もあります。米国の企業は日本以上に積極的に自社株買いに取り組んでいて株価上昇の一因とも言われています。

また、今回は取り上げませんでしたが、米国株の配当金の場合は、現地で10%が源泉徴収されてから、日本国内で課税されます。

米国と日本で二重課税となり、手取りが額面の約70%となります。

 

100×(1-0.1)×(1-0.20315)=71.7165

 

米国株も高配当銘柄が多いのですが、税金を考慮すると高配当銘柄だけに比重を置くべきか、考えるところですね。

 

次回は、これらを踏まえ「株式配当戦略について」をお伝えしたいと思います。

 

当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。

いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。

内容、ご相談に関しましては、株式会社 Noble principleまでお問い合わせください。