そもそも、私がその道のプロかどうかは、別として、運用会社出身、且つ証券会社での商品企画経験者として、投資信託を選択する際のチェックポイントについて、論点整理をしながら、お伝えしていきたいと思います。本来は、投資期間やリスク許容度、投資可能額等を踏まえて、個々のアプローチへと展開するべきですが、そちらはまた、改めてということで、今回は、投信関係について端的にまとめさせて頂きます。
初回はインデックスファンドに対するアプローチについてです。
基本的なことをまとめてみました。上級者の方には物足りないかもしれませんが、お付き合いください。
インデックスファンドは、皆さん、ご存じの通り、各指数の値動きに連動する投資信託です。しかし、各指数に連動する運用とはいえ、コストがかかります。従って、正確に申し上げると、各指数を少し下回る値動きになるのが前提とご理解ください。また、アクティブファンドと異なり、指数を上回るリターンを目指すわけではありません。良いインデックスファンドとは、各指数の値動きとの乖離(トラッキングエラーといいます)が小さい方が評価されます。指数の組み入れ銘柄入れ替えや純資産の急激な増減等のイベントが発生すると、指数の動きとファンドの動きに乖離が生じるケースが出てきます。
インデックスファンドに関わるチェックポイントを列挙します。シンプルで以下の通りです。
・パフォーマンスチェック(トラッキングエラーの大きさ)
・運用コンセプトチェック(どのインデックスに連動するか)
・コストチェック(信託報酬、その他費用、信託財産留保額の有無)
・純資産額チェック
・運用会社チェック(どの程度の規模の運用会社か)
・開示資料チェック(月報によるトラッキングエラーや純資産推移の確認)
基本的に、インデックスファンドを検討する場合は、純資産額とコスト、運用会社のチェックで十分だと思います。何に連動するインデックスを選択するかは重要ですけどね。
◆純資産額について
純資産額については、償還リスクや運用効率、固定費負担等の観点から一定水準以上の運用資産が好ましいと思います。運用対象によりますが、感覚的には100億円以上は欲しいところです。尚、何らかの理由で残高が短期的に急減するような場合は、要注意です。(解約も検討する必要があるかもしれません)その背景や理由を確認したいところです。純資産の増減に関しては、後述しておりますが、インデックスファンドに限っては、パフォーマンスに関して大きな影響は限定的だと思います。機械的な運用なので、多少のトラッキングエラーが生じる可能性は否定できませんが、大きな支障がでることは無いと思います。
◆運用コストについて
運用コストに関しては、とりあえず、低い方が好ましいのですが、これも運用対象によって標準的なコスト水準は異なります。アクティブよりもインデックスの方が低コストであるというのは事実です。インデックスに連動する投信を運用するために、特にアナリストやストラテジストは必要ありません。一方、アクティブファンドは、アルファを確保するために、企業調査やマクロ分析のコストがかかります。
インデックスファンドでも、一般的に株式の方が債券よりもコストは高くなる傾向があります。株式の場合で感覚的には0.3%、債券で0.2%以下の信託報酬であれば、かなり、リーズナブルだと私は感じています。また、コスト競争が乏しかった設定時期が昔のファンドの方が、信託報酬が高いケースが多いこともご留意ください。信託財産留保額は、不動産の退去費用のようなもので、解約の際にファンドに残すコストになります。最近設定のファンドでは見かけることが少ないですが、古めのファンドには信託財産留保額がある場合があり、投資家としては、できれば避けたいところです。運用会社に関しては、繰り上げ償還リスクや事業継続性のリスク等を考慮する必要が考えられますが、一般的に名前を聞いたことがある大手運用会社であれば、問題はないと考えて良いと思います。
◆インデックスの特徴について
インデックス自体に関する留意点ですが、インデックスは採用されている銘柄の時価総額に応じて、組み入れ比率が決まってきます。言い方を変えると、インデックスに採用されている以上、投資家から見て不要な銘柄も比率の大小は別として組み入れられることになります。アクティブファンドの場合は、不要な銘柄を意図的に避けることができますが、インデックス運用の場合は避けることはできません。また、債券インデックスの場合は、債券発行残高が大きいもの程、インデックスのウエイトが大きくなる一方、債券発行残高が大きくなればなるほど、格付けに対してネガティブな影響が出てくるという矛盾もはらんでいます。
また、どういったインデックスを選ぶかという点ですが、個人的には、「全世界株式インデックス」がベターだと思っています。昨今、米国をはじめとする先進国株式が好調ですが、新興国の方が好調だった時期もあります。ここ最近は、貿易摩擦等から中国のマーケットがふるいませんが、投資対象としてみた場合、ポテンシャルを無視することはできないと思います。安定して世界中の経済成長の果実獲得を目指すという意味合いでは、「全世界株式インデックス」が先進国も新興国もカバーしていることから望ましいと思います。但し、特定の市場やセクター等の成長に確信を持っている方は、この限りではありません。米国株式市場、特にNASDAQ市場はここ数年、素晴らしいパフォーマンスを上げてきています。但し、「山高ければ谷深し」といった面もありますので、経験、知識、リスク許容度に応じて、投資の可否、投資金額等を意思決定したいところです。次回以降に触れますが、コア・サテライトという概念では、NASDAQ市場等のインデックスファンドは、ボラティリティや最大下落率等を考慮するとサテライトの位置づけの方が良いと思います。
◆債券インデックスについて
債券のインデックスはどうでしょうか?
グローバル規模のインフレに伴い、今後、金利上昇の可能性が指摘されてきています。債券インデックス連動の場合は、どうしても金利上昇に弱い面は否定できないと思います。次の金利低下局面までに、ポートフォリオを構築するとか、積立によって、基準価額が低い局面で口数を増加させるというアプローチはありますが、金利上昇初期に債券投資をすることは、教科書的には好ましくありません。アクティブ運用の場合は、金利上昇局面でも短期債にウエイトを置いたり、金利低下局面の市場に投資をしたり、投資アイディア次第で工夫の余地はあると思いますが、債券インデックスの場合は、金利上昇局面は、逆風局面であり、金利低下局面が追い風の局面です。インカムを確保できたとしても、忍耐が必要になる可能性を考えておきたいところです。
◆インデックスファンド選択の結論
結論として、インデックスファンドに関しては、同類のものの中で、一定レベルの運用残高やコスト水準、運用会社をクリアしていれば、パフォーマンスに大差は無いと言えます。むしろ、どの資産(インデックスの中身:S&P500なのか、日経225なのか、野村BPIなのか)を選ぶかの方が重要になります。どういったインデックスがご自身のリスク許容度や期待リターン、今後のマクロ経済に即しているか、という視点の方をより重視したいところです。
《補足》というか、《おまけ》
投資信託に関するブログや解説を多く拝見するようになりました。
しかしながら、言葉足らずや理解不足、誤解等によるコメントも散見されます。補足として、最近、見かけたブログに関して、以下の2点についてお伝えしたいと思います。
◆基準価額の高いもの、低いもの、どちらが良いか?
基準価額の高低は、①ファンドの設定時期、②運用パフォーマンスの主としてふたつの要因に分解できます。基本的に①の設定時期の影響が大きく、日経平均が1万円の時に設定されたものと3万円の時に設定されたものでは、基準価額が大きく異なります。マーケットが低迷しているときや下落したタイミングで設定されたものは相対的に高くなりますが、マーケットが高値圏の時に設定されたものは基準価額が低くなる傾向があります。②に関しては、同時期に設定されても、パフォーマンスの良し悪しで基準価額は異なってきます。当然、良いものの方が高くなりますね。
私は基準価額が高いか低いかという理由で投資信託の選考をしたことはありませんが、安定した良いパフォーマンスを優先しましたので、結果的には基準価額が高いものを選んだことになります。投資信託に関しては、口数の大小よりも、投資金額の変化率で捉えたいところです。結論としては、基準価額の高低についてだけを特に重視しませんが、パフォーマンスや純資産残高等の他の観点から考慮すると、基準価額が高いものの方が好ましく感じています。
◆「純資産残高と増減について」
早期償還や固定費負担等の視点から純資産残高は大きい方が良いとコメントしました。
では、資産残高の増減はどうでしょうか?
資金流入に伴い、純資産が増えてゆく局面において、ファンドマネジャー(以下FM)は買付け超過(買い越し)になり、減少してゆく局面では、売却超過(売り越し)になります。急激な増減があると、適正株価でなくても買付けする必要が生じたり、買付けしたい魅力的な銘柄を売却せざるを得ないケースが生じたりします。基本的に投資信託の買付けや売却の申し込みがあった際、FMはほぼ全額を有価証券化、乃至は現金化する必要があります。(例外的に先物オプション等を利用できるケースもありますが、)
以前、運用会社仲間と話したところ、「急激な資金流入があった投資信託のFMは、マーケットの終了間際に価格に関わらず、買付けをしていた」ということを聞いたことがあります。投資信託の大規模な買付け申込みに伴い、このように適正株価でなくても買付けせざるを得なくなることがあります。もちろん、逆も然りですね。結論としては、ゆっくり純資産が増加する状態が一番好ましく、急増や急減は好ましくありません。但し、インデックスファンドに関しては、機械的な運用なので基本的には増減に大きな影響は生じないと考えています。(多少のトラッキングエラーが生じる可能性はありますが、)
また、余談ですが残高の大きな投資信託は運用会社のエース格のFMが担当することが多く、残高が小さくなった投資信託は若手FMが担当することが少なくありません。エース格のパフォーマンスが良いとは限りませんが、純資産が小さくなりパフォーマンスが優れないさえない投資信託の場合、このようなケースも想定されます。基準価格が低く、純資産額が小さいものは、このような点でも要注意ですね。
来週は、「プロが考える?投資信託を購入する際のチェックポイント≪アクティブファンド編≫」についてコメントしたいと思います。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。
内容、ご相談に関しましては、株式会社 Noble principleまでお問い合わせください。