前回までは、金融機関の投資規制の話と私の失敗談から学んだ心構えをご紹介しました。今週は、投資戦略、戦術をどのように考えていたか、また、現在、どのように考えているかという視点をお伝えしたいと思います。何が正解かわかりませんし、私自身、まだまだ、研鑽が必要と感じていますが、ご参考になれば、幸甚です。
かつて、運用会社での投信営業の仕事を通じ、マクロ経済のシナリオの重要性を痛感したこともあり、基本的に、大枠で成長が期待できる市場や業種などを推定し、それを前提に個別銘柄や個別のファンドを探してゆくプロセスを重視しています。また、投資に関わる視点をできるだけ、国内だけにとどめず、私は、グローバルで考えるようにしています。
証券会社勤務時代、株式の取引に関し、投資期間の制約があったこともあり、配当重視の銘柄と成長重視の銘柄を2;1程度の比率を目処に投資していました。株価変動の予想は困難ですが、配当の予想は、蓋然性が高いため、そちらを優先しました。決算月を見て、配当を取得するため、銘柄の入れ替えを行い、資金効率を高める作業も行いました。
配当と値下がりを考慮し、トータルリターンが少しでもプラスならば、OKとするケースも多かったように思います。考え方次第ですが、キャピタルゲインが±ゼロであっても、インカムゲインが確保できれば良いという捉え方もあります。
米国株投資は、NASDAQが好調のタイミングで、マイクロソフト、ドキュサイン、ズーム、スクエアなどに投資を始めましたが、退職の際に全て、売却したので、多少、プラスとなりました。今から思うと、運が良かったと思っています。
最近の米国株の値動きは以前以上に激しいものがあり、時差もあることから、なかなかリスク管理の難しさが否めません。一夜で20%を超える下落するケースも、多く見られました。逆指し値を有効に使い、一定レベルに達したら現金化するなどの作業が大事になってきているように思います。(私は面倒くさがってサボっていますが)過剰流動性やバブルと言ってしまえば、それまでですが、比較的短期間で数倍に上昇した銘柄が、短期間で数分の一になったケースが少なくないのも現実ですね。やはり、ボラティリティの高い時期には、テンバガー(10倍に株価が上昇するケース)銘柄候補を発掘することや継続保有するのは、難しい局面であるという印象です。
元同僚の後輩のケースです。
米国にペイパル(PYPL)という金融テクノロジー系の企業があります。2021年前半まで、かなり脚光を浴びていた銘柄です。ある日、ご機嫌な後輩に「何か、良いことがあったの?」と聞いたところ、「ペイパルが買値の倍になったのです!!」という答えが返ってきました。どうやら、80米ドル近辺で投資をして、160米ドルを超えたタイミングのようでした。その後、更にペイパルは、310米ドルまで上昇しましたが、米国のインフレによる利上げ懸念などで大幅な下落に転じ、今年の3月には、92.25米ドルまで下落しました。とても将来性のある銘柄と評されていましたし、現在も期待度が高い銘柄だと思います。
しかし、
80米ドル→310米ドル→92.25米ドル→現在は、115米ドル近辺
というような値動きで、現実的に310米ドル近辺で売却できたかと言うと、私には無理です。私が当事者であっても、せいぜい、下落局面の150米ドル近辺で売却できたかどうか?という印象です。
仮に複数単元(100株単位なら200株以上)投資できていたら、倍になった段階で半分、売却し、投資元本を回収するという手法を取れたかもしれませんが、いずれにしても、大きな変動があるケースでは、長期保有すれば良いというものでも無いと感じた事例です。勿論、超長期での視点であれば、投資判断も手法の妥当性が異なるとは思いますけれど。
私の投資戦略に話を戻します。
前述の通り、幾つかの視点でザックリと投資対象のウエイト付けを意識していましたし、現在も同様です。例えば、配当を意識したインカム重視/成長期待の値上がり重視の比率、国内株/外国株(投信を含みます)、小型株/大型株、グロース株/バリュー株などです。これらをマクロ経済の見通しや金融マーケットの動向、自分自身の見通しに基づいて、調整し、個別銘柄を選択してみました。強気で成長株相場の場合は、成長期待の比率を多めにし、インカム重視の比率を落としたりしました。逆に先行き不透明感が強いマーケットでは、インカム重視のウエイトを高めたりしましたね。一定の分散が効くと、銘柄の入れ替えやポートフォリオ全体のリスク管理が比較的対応しやすいように感じています。
また、個別銘柄を探す際には、投資信託の組み入れ銘柄をチェックすることも一定の効果があるように思います。各社のファンドマネジャーが調査の上、選別した銘柄が組み入れられているため、少なくとも、粉飾決算やガバナンスの問題などのリスクは排除できますし、時系列に月報をチェックできるのであれば、対象銘柄を増やしているのか、減らしているのかを把握することは可能です。組み入れ銘柄の中で気に入ったものがあれば、検討してみるアプローチです。また、個別銘柄が投資信託に組み入れされているかどうかも、モーニングスターのHPなどから過去の保有に関しては確認可能です。
投資信託に関しては、実際に投資して基準価額の変動を認識しないと、わからないことも多いため、気になった銘柄でも当初は、打診で少額投資を行い、上昇するにせよ下落するにせよ、イメージ通りの値動きと確認できた段階で追加投資を行うものと見限るものを判断しました。また、日米の個別株投資だけでは対応できないような資産やグローバル株式のような短期的な視点が不要なアセットクラスに投信を購入しました。
ノーロード(販売手数料無料)が定着したので、買い付けや解約もコストを気にせずに対処できるようになり、投資家目線ではありがたい環境になりました。
閑話休題(投資信託の昔話)
私の記憶なので、甚だ、心許ないところですが、我が国において、2000年迄は海外株に投資できる投資信託はアジア地域を除いてほとんど無かったと記憶しています。インデックスファンドも国内株以外の商品の記憶はありません。従って、米国株が大きく上昇していても、当時は投資する手段がほぼ無かったと思われます。海外ものと言えば、先進国の国債に投資し、一世を風靡した「グローバル・ソブリン」が設定されたのが、1997年12月ですね。その後、ネット証券やネット銀行が存在感を増し、投資信託も各種インデックスファンドが設定され、グローバル株式なども投資対象になっていく訳ですが、2015年頃までは、投資信託のノーロード商品は限定的で、特にアクティブファンドの多くは、販売手数料3%という水準が多かったように思います。販売手数料は、「販売時の説明の対価」とされており、ネット証券で投資信託を購入する際、違和感を覚えた記憶があります。販売手数料があると、解約時の損益に影響を及ぼします。どうしても、手数料控除後のパフォーマンスを意識せざるを得ないため、適切なタイミングでの解約を躊躇するということもありました。
最近、感じている課題ですが、特に米国株などの海外資産に関して、個別株で対応した方が良いのか、ETFや投信で対応した方が良いのかという悩みがあります。既に述べたとおり、米国を初めとする海外個別株投資は、時差があり、且つ、値動きが大きい面もあり、特にここ数ヶ月の値動きは、一日を通じても大きいものがあります。
保有している米国株の銘柄数が限定的(私の感覚では10銘柄程度まで)であれば、リスク管理もある程度、可能だと感じますが、それ以上銘柄数が増えると決算内容の確認やIR関連のニュース、その他M&A情報などの把握が困難になってきます。株価をリアルタイムで見ることができるようになりましたが、大きく下落した際、その背景を素早く把握する困難さは変わりません。以上のような制約を考慮すると、最近では、投信やETFをベースに管理できる範囲での個別株投資というのがベターではないか?と感じています。もちろん、様々な投資手法があり、成功されていらっしゃる方も多いとは思いますが、気に入った銘柄のみ個別株対応で、後はインデックスファンドや信頼できるアクティブファンドで十分かもしれないと強く感じるようになりました。特に小型株や特徴のあるセクターなどは、情報を追いかけることに負担が生じます。そのようなケースでは、投資信託経由の投資をメインにする手法が有効なのかもしれないと思っています。
全ての有価証券に共通する点だと思いますが、実際に投資してようやく、発見することは少なくありません。以前のブログでも触れましたが、流動性の低いETFは、売買の板が薄いため、結果的に高コストの投資になりかねませんし、為替ヘッジがない金のETFの値動きは、為替の影響でドル建ての価格とあまり連動しなかったりしました。また、米国個別株投資に関しては、リアルで値動きしている点が投資信託と異なり、想定外の値動きに戸惑うことも少なくありませんでした。
このシリーズのまとめをしてみます。
◆投資対象の上限を設けること
◆投資対象の特徴(成長重視、配当重視など)で一定の分散をすること
◆複数単元投資の場合、保有株が倍に上昇したら半分、利益確定を検討すること
◆負担の少ない情報収集手段を考えること(投信の月報など)
◆米国個別株の銘柄数が増加するとリスク管理が難しくなる
◆米国個別株とETFや投信との併用は検討の余地がある
個人的な話が多かったこのシリーズで皆さんの参考になる点があれば幸甚です。
最後に私の運用成績はどうだったのか?という点ですが、山あり谷ありで、反省材料も数多いですが、投資家を継続できているので、個人的には、まずまずであると評価してみます。
次回は、「インフレ率と賃金上昇率について考えてみる」をお伝えしたいと思います。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。
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