今回の「FIRE」は、タイトルにもある通り、「金融資産を築いて(Financial Independence)早期退職し(Retire Early)、自分のペースで暮らしてゆく」とコンセプトです。複数の書籍が出版されており、昨年から書店でも良く見かけるようになりました。以前のベストセラーである「金持ち父さん、貧乏父さん」で語られている保有資産に働いてもらうというエッセンスと重複する印象はありますが、若い年代の方を含めて、経済的自立を達成と早期退職の両立を目指すという考え方です。職場でのストレス等から解放されたいというニーズ?もあって、中々の売れ行きのようですが、個人的な印象としては、雇用環境や雇用条件に不満を持つ方が早期退職を目指すというニュアンスがやや強い印象も受けています。経済的自立を達成できる金融資産の規模が目標になってしまい、どのように自立した生活を目指すのか、という視点が欠けているようにも感じます。
簡略して概要をまとめますと、『若い頃から節約して、資産形成をし、金融資産(不動産も含む)からのインカム収入で生活費を賄い、経済的自立を果たしたうえで自由な生活を過ごすという趣旨で、4%のインカム(税引き後)確保を前提に言えば、年間に必要な金額(生活費等)の25倍の資産を保有すれば、経済的自立が図られる』というものです。
期待リターンが4%で必要額の25倍というのは、100/4=25ということで、リターンが3%であれば33.3倍の資産が必要となり、5%であれば20倍となります。仮に年間生活費400万円として、25倍で考えると1億円、33.3倍で考えると1.33億円程度になります。同様に生活費500万円に対しては、25倍で1.25億円、33.3倍で1.665億円です。米国の金融市場をベースとした考え方なのか、期待リターンが4%とやや高めの数値が出てきたと推測しますが、この数値は税引き後で考える必要があります。日本の有価証券税制で言えば、5%程度のインカムを確保しないと、税引き後4%は、達成できませんね。感覚的には、年間生活費500万円、運用利回り3.0%の線で、1.665億円、余裕を見て2億円というラインがひとまず、FIRE生活の現実的な最低ラインの気がします。
インカムとは言え、高いリターンを求めるには、一定のリスクが伴います。国内リートであれば、スポンサーの信用リスク、組入れ不動産の空室リスク、不動産市況の低迷、災害リスク等、が考えられ、高配当株でも業績動向や減配リスク、株式市場全体の動向等を配慮する必要が出てきます。残念ながら、ハイイールド債も含め、現在では、円建て債券で5%を超えるものは見当たりません。
5%のインカムを、国内市場で探すと高配当株の一部、国内リートの一部、インフラファンド等が有価証券の範囲では該当してきますが、配当重視だけで銘柄選択をするとセクターが偏る可能性も否めません。投資対象をトータルリターンで考える必要があり、一定程度は、全世界株式インデックス等を保有し、必要に応じ、解約して現金化、または、高配当資産にシフトする施策も検討する必要があると感じています。前回のコラムでご紹介したように、配当性向が高い銘柄で、業績が低迷すると株価低迷につながります。減配や無配転落等があれば、予定が大幅に狂ってしまいますね。また、運用利回り(必ずしもインカムに限らず)を重視し過ぎると、収益不動産投資や仮想通貨投資、やや怪しげな投資等も投資対象となってしまうかもしれません。できるだけ、シンプルでいきたいものです。毎月分配タイプの投資信託に関しては、私は、ややネガティブな立場です。別の機会に詳細にお伝えしますが、理由としては、コストが高めであること、インカムだけで分配を確保しているファンドが少ないこと(基準価額を犠牲にしている)、分配水準の永続性が担保されていない、分配水準が委託会社の裁量に任されていること等が挙げられます。
そもそも論になりますが、私は「経済的自立」と「早期退職」は、別の概念と認識しています。経済的自立が達成されることは、とても意味のあることだと思いますが、別に経済的自立を達成したから、早期退職をしなければならない訳ではなく、両立することはありだと思います。また、給与所得者(サラリーマン)であっても、やりがいのある仕事に取り組めて忠誠心を感じる企業の中で自己実現できれば、とても意義のあることであると思います。無論、副業や有価証券投資に制約のある場合も多いのも現実だと思いますが。
ある意味、企業の中で無機質な忖度を求められたり、不条理、不合理な意見が通ったり、上下関係が軋んでいたり、その割に収入が伸びない等という閉塞感があって、早期退職を目指し、そのために経済的自立を目指すという順番のケースもそれなりにあるのではないかと感じています。必ずしも、理想の企業とご縁があるとも限りませんが、転職という手段もあります。ご自身の好きな仕事を通じて、自分の付加価値を高めるというアプローチと金融資産の運用を適切に行うというアプローチの両立を目指せるのが理想であり、まず、目指すべき方向性だと思います。
仮に現在の仕事を辞めても、全ての収入を配当収入等に依存するのではなく、何らかのビジネスや社会貢献を行って、不足分をインカム収入やキャピタルの取り崩しで補填するというやり方がやりがいの維持や周囲との人間関係維持の面からも妥当な気がします。スポットで月に何日か、自分の得意な分野、好きな分野で一定の収入を確保し、経済的自立を活かすという生き方も今後、メジャーになってゆくかもしれませんね。このようなケースを実現できれば、25倍に必ずしも、こだわる必要はありませんね。
現実的なお話ですが、退職時、退職後の「税金」や「社会保険料」もご留意ください。退職金の場合は以下の通りです。
退職所得=(収入金額-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額:勤続年数20年以下の場合は、40万円×勤続年数(最低80万円)
勤続年数20年超の場合は、800万円+70万円×(勤続年数-20年)
収入金額から勤続年数に応じた退職所得控除額が控除され、その上で1/2が課税対象となります。給与所得等よりも優遇されていますが、勤続年数に応じた控除という面から終身雇用が前提の制度と推測できます。一般的な人事制度では、短期間で退職すると退職金の額が少ないだけでなく、税務上、控除額も少なくなります。
また、住民税も要チェックです。住民税は本年の分が翌年、課税されます。転職でも同様ですが、収入が減少した年の負担感は大きくなります。FIREした翌年に前年の収入に応じた課税が発生することをお忘れなく。また、企業退職後の国民年金や国民健康保険といった社会保険料の個人での負担も侮れません。
早期リタイアを具体的に検討するまでに、今後のライフプランや働き方、ライフワークというものを具体的にイメージするだけでなく、可能であれば在職中に具体的な準備を行うことも重要だと思います。証券会社出身者がデイトレードでの生計を前提に退職し、うまくいかずに復職したということを耳にしたこともあります。計画性に難ありと言わざるを得ませんね。
年代ごとの資産形成に関しても一考の余地があるかもしれません。
若い年代は、資産を作ること、経験を積むことが優先で一定のリスクを取ってリターンを確保、一定年齢以上は、インカムの確保の経験、同時に資産を更に作ること、FIREのゴールが近い方は、自分自身のインカム確保のモデルを確立することと資産が偏らないようにリスク管理を実践すること、等が優先課題だと感じます。仮に積立NISAで20年間、平均5%で運用できれば、当初元本は2.65倍に資産が増えることになります。年間の枠が40万円としても、106万円となり、2037年まで新規投資を継続できれば、積立NISAだけでも(2037-2021=16回)、投資元本640万円に対し、1,696万円(106万円×16回)への道が見えてきます。
内外株式の期待リターンは、機関投資家の目線でも5%から6%程度とされています。但し、大きな調整が途中に何回も入ることを前提に考えてください。
20代~30代;とにかく資産を作る、投資経験を踏む(苦い経験含む)
積立NISA、NISA、一般の積立(全世界株式インデックス、米国株式インデックス、新興国株式インデックス、等)+自分の好みのポジション
節約や倹約はとても大事ですが、ご自身の健康維持や自己啓発も忘れないでください。
ご自身の付加価値を高める努力も大切です。自己投資は大切ですが、投資額を回収できなければ、自己満足に過ぎません。いかに回収するかという意識付けも欠かせませんね。
40代~50代中盤;インカム確保の経験、資産を更に作る(苦い経験を活かす)
積立(上記と同様)+インカム重視の資産配分の経験+自分の好みのポジション
余裕があれば、インカム(配当等)の再投資も税引き後ではありますが、検討したいところです。健康への気配りの重要性も増してきます。時間とお金を適切にかけてください。
ご自身の年金受給額見込みも意識しましょう。
50代中盤以降;自分のFIRE向けモデルの実践(リスク管理)
インカム重視の資産配分+インデックスの取り崩しの経験+自分の好みのポジション
ご自身やご家族の健康状態の把握、医療費負担等も支出項目として認識してください。
ここまで、色々な視点で「FIRE」について、考えてみました。「RE」の早期退職は別として、「FI」の経済的自立という考え方は、現在のお仕事に携わっていてもできることですし、すぐ、始められる点が良いですね。以前、ブログで触れた税制優遇のあるNISAや積立NISA、iDeCo等の活用が、第一歩になると思います。前述しましたが、資産形成も大事ですが、健康を損ねてまで、倹約や節約に走るのは本末転倒になってしまいます。何事もバランスが大事だと感じます。(自分自身の反省も踏まえて)また、やりがいの確保も意外と大きな課題だと思います。人間は本能的に誰かに認めてもらう欲求があり、それが次のプロセスのモチベーションにつながります。
残念ながら、今後も増税や社会保険料負担の増大が予想されます。FIREを目指すかどうかは別として、資産形成に関しても自助努力と自己防衛の重要性がより高くなると思います。
コロナ禍、暑い中ですが、皆さま、ご自愛ください。
良い週末をお過ごしください。
次回は、「自宅は、賃貸か?自己所有か?」についてコメントしたいと思います。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。
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