インカム収入確保、高配当株投資について

ご存知の通り、日本はゼロ金利政策が続き、預金金利は0.001%台が普通です。100万円の預金で金利が1年間に10円程度という水準です。一方、株式や国内リート等では、配当利回りが3%を超えるものも多くあります。場合によっては、5%超のものも散見します。リスクはどうなのでしょう?

 

高配当を意識した株式投資という手法もあり、私自身、何年間か、試みてみました。日本の企業は、3月/9月決算が多いですが、他の月に決算を行う企業も少なからず、あります。それらをうまく理想的に入替ができると、毎月のように配当収入を確保することが可能になります。仮に、その作戦が順調であれば、投資効率は高いものになります。自分自身の反省を踏まえ、論点をお伝えしたいと思います。この手法に関して、自分自身の成果は、トータルリターンでは、まずまずといったレベルだったと思います。

 

一般的には、決算から約3か月以内に配当が支払われます。基準日に該当する有価証券を保有していれば、権利を確保できますので、権利落ち(理論上、配当分下落した価格)後、売却しても、配当収入を確保できます。国内においては、REIT(不動産投資信託)やインフラファンド、REITに投資するETF等は、決算月がバラエティーに富むため、配当を意識した投資の手法には欠かせません。逆に配当落ちのタイミングで高配当株やREIT等を買付すると、1カ月から3か月程度で元の水準に戻るケースも多くあります。

 

別の機会に、お伝えしたいと思いますが、配当や優待を得るための投資にも、心理的な課題があります。権利付き最終までに配当や優待以上に値上がりしても、売却しにくくなります。権利を確保してからでも利益確定できるという前向きというか、楽観的な投資心理になりがちです。もちろん、うまくいくケースもありますが、私自身、失敗した経験も少なくありません。1,000円のクオカードを獲得するのに、数万円のコストがかかったりしました。メロン二玉で数万円!というケースも。

 

また、高配当株投資で注意したいのは、配当は受け取れるものの株価が上昇しにくいものも多いということです。配当がバッファーとなって、下落時に下がりにくい面はありますが、逆に下がってしまうと上昇に転じにくい面もあります。

 

ここからは、配当を含めて少し、財務的に株式を俯瞰してみます。

 

ザックリ申し上げると、企業は売り上げから費用を控除したものが利益になります。その利益から税金を支払ったものが税引き後利益となり、配当の原資の一部となります。配当性向は、実際の配当額と税引き後利益額のバランスを表す指標です。配当性向が50%であれば、税引き後利益の50%を配当に回し、残りを事業に再投資するということです。配当性向が高過ぎると、その期の配当は良いとしても、配当の継続性や事業の成長性に疑問が生じるケースが考えられます。利益成長が継続し、増配されているのであれば、良いのですが、企業の利益成長率がマイナスなのに、高い配当を継続することは企業価値の棄損につながる場合もあります。解釈によりますが、事業への再投資よりも高配当を優先するという財務戦略では、将来的な投資を犠牲にし、結果、株価の上昇が期待しにくいと捉えることもできるかもしれませんね。

 

それらを踏まえて、高配当銘柄、増配銘柄の代表例のJT、花王のデータを見てみます。私も過去、これらの銘柄に投資したことがあり、配当金や優待はありがたかったものの、トータルではうまくいかなかったような記憶があります。

 

年度 中間配当 期末配当 年間配当 連結配当性向(%)
2021年度 65(予想) 65(予想) 130(予想) 96.1(予想)
2020年度 77 77 154 88.1
2019年度 77 77 154 78.6
2018年度 75 75 150 69.7
2017年度 70 70 140 63.9
2016年度 64 66 130 55.2

(JTのHPを基にNoble Principleが作成)

 

過去、5年の配当関係のデータを取ってみました。2016年度は、配当性向が50%台ですが、徐々に水準が切りあがり、2020年度は、88.1%、2021年度予想は、96.1%となっています。解釈としては、研究開発や設備投資の予定が余りなく、株主に配当として還元するスタンスと理解します。国が大株主という背景もあるかもしれません。株主優待もあり、魅力的な投資対象ですが、売り上げ、利益、配当性向をチェックすると、たばこ事業が厳しい環境であるため、電子タバコ等の材料はあるものの、株価上昇の面では当面、大きな期待は難しそうな気がします。

 

花王に関しては、連続増配銘柄として良く取り上げられます。31期連続増配の実績です。もっとも、2021年7月現在の配当利回り自体は、2.1%程度と、決して、高いわけではありません。また、同社は、配当性向40%目標を掲げています。

 

年度 基本的1株当たり当期利益 1株当たり配当金 配当性向(%)
2020年 262.29円 140円 53.4
2019年 306.70円 130円 42.4
2018年 314.25円 120円 38.2
2017年 298.30円 110円 36.9
2016年 253.43円 94円 37.1

(花王のHPを基にNoble Principleが作成)

 

2019年と2020年は、基本的当期利益が減少しているものの、増配は継続しました。結果、配当性向が30%後半だったものが、50%を超える水準まで上昇しました。同社は、増配の継続を意識している印象で、配当性向にも目標を設定しているので、業績が回復すれば、配当金の水準はより上昇することが期待できるかもしれません。こうやって、利益と配当と配当性向を並べて見てみると色々と発見がありますね。

 

また、株主は配当を受け取る際、配当課税が伴います。企業が法人税を支払った後、受け取る配当に課税が生じる(二重課税)ということで、一定の条件の下、配当控除が可能となります。尚、Jリートに関しては、高い配当性向が認められているため、配当控除の対象外となっています。一方、株主還元の一環で「自社株買い」があります。財務的には、株主にとって、配当と同様の効果があるとされています。税引き後利益の一部で自社株を購入し、償却することで、ROE(株主資本利益率)、EPS(一株利益)等の向上につながり、理論上は株価の上昇が期待できます。また、配当と異なり、株主に追加の税負担は生じません。従いまして、税負担して配当で受け取るよりも、自社株買いで株式を消却してもらう方が好ましいという投資家(特に機関投資家)もいます。

 

せっかくなので、財務的な視点を少し追加します。

 

「株式分割」は、財務的には株価に対してニュートラルです。企業価値自体には変化は生じません。但し、株価が高いケース等で、最低購入価格が手頃になるという観点から株価上昇につながるケースは少なくありません。株主数を増加させるという効果も期待できます。

 

公募・売り出しの「公募」は、企業が新しい株を発行して、証券会社を通じて株主を募るというもので、一株利益の希薄化につながり、株価にはネガティブに作用することが多いです。「売り出し」は、既存の株主の保有している株式を新たな株主に広く保有してもらうというもので、発行済株式数が増えるわけではないので、財務的には株価に対してニュートラルです。但し、株価が上昇すれば売却したい投資家が増えるという点からは需給の面で株価上昇にブレーキがかかりやすいと思われます。

 

株価変動に影響を受けにくいインカム収入確保は、投資の動機として魅力的なものとなりますが、最後に思いつくまま、順不同で留意点やチェックポイントを列挙します。次回のテーマ、FIREという「経済的自立、早期退職」を目指す方には、特に必要な知識、認識だと思います。また、ポートフォリオ全体に占める高配当(インカム志向)のウエイトですが、資産形成期の若い方は、資産形成をメインにインカム志向は少なめに、資産保全期(シニア層)の皆さまは、お好みですが、私ならば、インカム志向を半分程度は持ちたいところですね。金利が高い時期であれば、債券投資でカバーできましたが、現状では、債券以外のインカム資産で対応せざるを得ないと思っています。

 

・配当利回りが高い銘柄は、配当性向もチェックしてみる

・時系列に過去の株価と配当を確認して、異常値かどうかをチェックする

・連続増配銘柄は、増配しているものの、配当水準が低いことも多い

・インカムとキャピタルのトータルリターンで投資を考える

・配当や優待の権利前でも含み益の場合、売却の可能性を検討する

・直近の配当利回りが異様に高い場合は、減配や無配転落の可能性を考えてみる

・配当性向を公約している企業の場合は、利益に配当が連動するのでわかりやすい

・国内REITの場合は、増資による株価下落に留意する(決算時期に多い)

・国内REIT、インフラファンドの場合、スポンサーをチェックする(信頼度のチェック)

・国内REIT、インフラファンドの場合、株主も確認してみる(顔ぶれのチェック)

・株式等の配当と投資信託の分配金の違いを理解する(別の機会にご紹介します)

・一般的に信用力の低いものの方が(配当)利回りは高い(債券も同様です)

・なぜ、(配当)利回りが高いのか、理由を考えてみる(何らかの理由があるはずです)

・高配当を重視し過ぎると、銘柄が偏る可能性がある(国内REITだけ、等)

・米国株は、二重課税となるが、配当利回りの高いものも多い

 

次回は、最近、話題の「FIRE(経済的自立)について考えてみる」を取り上げたいと思います。

 

当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。

いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。

内容、ご相談に関しましては、株式会社 Noble principleまでお問い合わせください。