インフレと株式や不動産、ゴールド等のお話

前回は、インフレについて、お話しました。今回は、株式や不動産、ゴールド、仮想通貨等への影響について、考えてみたいと思います。

 

前回、お話した通り、物価と通貨には、以下の関係が成り立ちます。

 

物の価値↑ 通貨の価値↓

 

通貨の価値が下落すると、通貨代替資産の価値が相対的に上昇するケースが生じます。ゴールドや最近では仮想通貨等が該当します。但し、どちらも、インカム(金利収入)を生まない資産なので、金利上昇中のインフレ局面では、①通貨の価値の下落というプラス面、②金利の上昇(インカム水準の上昇)というマイナス面という条件での値動きとなります。

 

従来から言われている通り、インフレになると、ゴールド(や仮想通貨)の価格が上昇するというのは、通貨の価値が下落するという面では、理論上もその通りなのですが、他方、金利上昇局面でインカムを生じないという点ではマイナス局面でもある訳です。

但し、金融マーケットや通貨、国の財政不安等の信用不安が生じると通貨に対する信認がより下落するので、相対的に代替通貨が買われやすくなります。特に、地政学リスク(戦争や紛争)、政府や金融機関に対する信用不安等が生じると、より一層、買われる傾向が強まります。

 

追加のお話ですが、

「ゴールド」のグローバルでの取引は、基本的に米ドル建てとなります。日本国内でも貴金属業者の取り扱いはありますが、そのおおもとの取引は、米ドルと思ってください。一般的にリスクオフ(投資家心理が悪化する)になると、円高・米ドル安になる傾向があります。その際に「ゴールド」が買われるケースも多くあります。その場合、米ドル建ての金価格は上昇しますが、為替で米ドル安・円高が発生することで、円建てのゴールド価格の上昇を打ち消してしまうことが、まま、あります。それを回避するためには、為替ヘッジ付の投資信託に投資することがひとつの手段となります。ゴールドが買われていても、米ドル安・円高にならないこともありますが、ヘッジコストの水準次第の面はあるものの、金価格だけに着目する場合は、為替ヘッジの利用も検討の余地があると思います。

 

不動産は、どうでしょうか?

代替通貨よりも、流動性(現金化が難しい)が乏しい一方、通貨の価値が下がり、実物資産の価値が上がる訳ですから、その点、不動産にとってプラス要因となります。また、前回も触れましたが、インフレの場合、借入が有利に働きます。名目上の借入金額の価値が目減りするからです。そういう面では、借入をして不動産投資というアプローチは追い風を受けます。その一方、金利が上昇と、インカム収入である賃料収入(賃料が多少、値上がりしたとしても)の現在価値は減少することが懸念されます。こちらも相反する条件下での値動きですね。私は、インフレ下の不動産の値動きは、買い手と売り手の需給の影響(特に心理的な影響)がより大きくなるように感じています。インフレに関わらず、魅力的な物件には、より資金が集まりやすい傾向はどの局面でも同様です。但し、不動産に限らずですが、どこまでも価格が上昇するということは、考えにくく、バブルの醸成につながってゆく可能性も否定できませんね。

 

次に株式はどうでしょうか?

結論から申し上げますと、こちらもケース・バイ・ケースということでしょうか。

財務的(ファイナンス的)な視点から、株式を評価する場合、単純化すると

 

理論株価=Σ将来に渡るCF(キャッシュフロー)/(1+r)ⁿ

 

(1+r)は、割引率で、この率が高くなると、現在価値は減少します。

金利上昇することで、当然、割引率は上昇します。(正確に申し上げると、割引率には、リスクプレミアムと言って、金利以外の要素も含まれますが)

その一方で、物価が上昇することで、製品の値上げにつながり、売り上げが上昇し、キャッシュフローも大きくなる企業も多く現れると思います。

 

また、インフレを一言で申し上げても、「供給サイドの問題」と「需要サイドの問題」のふたつがあります。「供給サイド」は、需要が一定でも、供給が何らかの理由で細ってしまい、物価が上昇するケースです。

 

供給↓<需要→

 

コロナ禍で半導体の供給不足が深刻になっている現在、半導体分野は、このケースが該当すると思われます。但し、このケースでは、景気全体に好影響を及ぼすかと言えば、限定的に感じます。

 

また、供給サイドが一定でも、「需要サイド」が大きく伸びれば、やはり、バランスが崩れ、物価上昇につながります。この場合は、需要サイドが伸びることから、景況感は良く、賃金上昇等も期待できるケースが多いように思われます。

 

供給→<需要↑

 

どちらの場合も、先に述べた景況感とのバランスを見ることが必要だと思います。つまり、経済成長率(GDP成長率等)上昇を伴うのかの判断が必要になります。物価が上昇しても、賃金が上昇し、景気が良い局面であれば、株式市場は好意的に反応すると考えられます。一方、供給不足による一部のコモディティ価格(原油や銅等)上昇に伴うインフレの場合、経済全体への好影響は限定されると思います。また、物価が上昇しても、成長率が伸びず、賃金も低迷するケース等は、厳しい投資環境となります。

 

つまり、

供給↓<需要→

このパターンで、全体的な経済成長を伴わない場合は、一部の業種を除いて、株式市場にインフレの恩恵は限定的と思います。

 

また、

供給<需要↑

こちらの場合は、経済成長が期待できるので、株式市場には追い風が吹きやすいと思います。

どちらにしても、「物価上昇率」と「経済成長率」のバランスをチェックすることが大事だと思います。

 

先日、日本経済新聞に掲載されていましたインフレ局面での過去の日本株の値動きですが、結果的には、まちまちでした。既に述べたように、インフレ自体が、供給サイドの問題なのか、需要サイドの問題なのかによっても、異なりますし、提供するサービスに付加価値を付け値上げできる企業の存在の有無も影響を及ぼすと考えられます。更に言えば、インフレ自体が一国の課題なのか、グローバルの課題なのかによっても影響は異なります。

 

結論としては、賃金上昇を伴う需要拡大を背景としたインフレであれば、株式市場にプラスに働く要因となりますが、供給不足を背景としたインフレであれば、(広く、賃金上昇の恩恵を受けるわけではない)追い風は一部の業種に限定される可能性があり、株式市場全体にとっては、必ずしも、プラスに働くとは限らないと考えます。インフレ動向と金利動向、成長率の数値のバランスをチェックすることが肝要だと思います。

また、個別企業では、物価上昇を価格転嫁できる企業が勝ち組になれる可能性が高いと思います。独自のサービスを提供できる企業、価格競争力のある企業、提供するサービスに付加価値がある企業等です。

 

2021年後半に実施されるとも言われている、米国のテーパリングですが、インフレの面から考えると、コロナ禍で人手不足や半導体の供給不足による需給バランスのひっ迫の面が強く、今後の展望に関しましては、これまでのブル相場とは異なって、コロナが収束に向けた経済回復が伴わないとやや心配な面があるように感じています。

 

次回は、「インフレと債券のお話」のテーマを予定しています。

 

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