インフレ率と賃金上昇率について考えてみる

 

昨年の9月に「為替の円安は良いことか?」というブログを作成しました。

マクロ的に俯瞰すると日本にとって、円安メリットよりも円安デメリットが上回る可能性を指摘させて頂きました。今回は、内容を改訂します。

 

当時は、ロシアのウクライナ侵攻の話も無く、日本の急激な経常収支悪化の話も無かった頃です。米ドル/円の為替レートは、111円近辺でした。最近では、一時、125円台になったことが話題になっていましたね。いまや、135円という予想も出ています。

 

また、こんなことも書いています。

 

「インバウンド」がコロナの前までは、よくもてはやされていました。アジア圏を含めた海外の皆さんが豊かになったという背景はあるのですが、日本国内の物価が相対的に低くなって、海外から見ると良いものが安くなっているという認識の方が大きいと思います。この10年来、一人当たりGDP(豊かさを表す指標と言われています)の数値は、残念ながら日本は横ばいです。収入の伸び、税金、社会保険料の負担増等の影響もあると思いますが、可処分所得が伸びない状態が続いています。その一方、アジア圏を含めた海外の一人当たりGDPの伸び率が高く、購買力も高まっています。そんな環境で円安であれば、海外の皆さんはこぞって、日本にやってきます。

 

「日本の賃金は上がらない」とか「デフレが続いている」という見解もよく耳にします。日本銀行が消費者物価指数の目標値を2.0%にしてから時間がたちました。

実際の数値はどうなっていたのでしょうか?その上で、実質賃金上昇率も確認したいと思います。

 

実質賃金上昇率=(名目賃金上昇率)-(物価上昇率)

 

実質賃金上昇率は、物価上昇を考慮した実質ベースの賃金上昇率です。

2001年は、名目の賃金上昇率が1.2%でインフレ率が▲0.69%でした。

 

1.2%-(▲0.69%)=1.89%

 

ということで、名目賃金上昇率よりも実質賃金上昇率が高かった年となりました。

以下の表をご覧ください。

 

賃金上昇率 インフレ率 実質賃金上昇率
2001 1.2% -0.69% 1.89%
2002 -1.0% -0.90% -0.10%
2003 -0.2% -0.26% 0.06%
2004 -0.2% -0.01% -0.19%
2005 0.1% -0.29% 0.39%
2006 -0.1% 0.26% -0.36%
2007 -0.2% 0.05% -0.25%
2008 -0.7% 1.38% -2.08%
2009 -1.5% -1.33% -0.17%
2010 0.6% -0.74% 1.34%
2011 0.2% -0.28% 0.48%
2012 0.3% -0.05% 0.35%
2013 -0.7% 0.33% -1.03%
2014 1.3% 2.76% -1.46%
2015 1.5% 0.80% 0.70%
2016 0.0% -0.12% 0.12%
2017 0.1% 0.49% -0.39%
2018 0.6% 0.99% -0.39%
2019 0.5% 0.47% 0.03%
       
累計 1.80% 2.86% -1.06%
平均 0.1% 0.2% -0.1%

(各種資料よりNoble Principleが作成)

 

予想通り、該当期間を通じ、賃金上昇率も物価上昇率も低い水準でした。

19年間で賃金が1.8%しか上昇していないというのは、改めて、驚きです。

また、わずかですが、物価上昇率が賃金上昇率を上回りました。加えて、社会保険料の負担増などを考慮すると、可処分所得ベースでは、更に厳しい環境が続いていたと言えると思います。年金支給額も賃金に連動する方向性になっており、日本全体が均衡縮小になってきている懸念を感じます。

 

これらのトレンドに加えて、現在、グローバルなインフレと円安が襲ってきています。

 

今回のインフレに関しては、

 

  • 昨年からのコロナの影響による供給不足が解消していないところに
  • ロシアのウクライナ侵攻による経済制裁が加わりました。
  • 追い打ちをかけているのが円安です。日米金利差が拡大傾向の上に、日本の経常収支の悪化が鮮明となってきています。円安が円安を呼ぶ厳しい展開になりつつあるように感じています。

 

先日、日本の長期金利が上昇した際、日本銀行が指し値オペ(公開市場操作)を実施しました。長期金利を低位に安定させる目的であると推測しますが、別の視点では、日米金利差拡大により、円安圧力がかかりやすくなるようにも思いました。日本銀行は、金利上昇よりも円安の方を選択したではないかという認識を私はしています。金利上昇も円安も、どちらも今の日本にとっては、厳しい選択ですが、多少の金利上昇を容認した方が良いようにも感じています。

 

 

2022年4月現在、コンビニなどでも幅広い食料品の値上げが行われましたが、今後、更なる価格上昇が見込まれています。秋には小麦価格の見直しがされます。

今回のインフレの厳しい点は、グローバルで供給不足が生じていること、為替の円安により日本の購買力が減じていること、需要増加に伴うものでは無いため、金融政策の有効性が限定的なことなどが挙げられると思います。また、インフレは遅効性があるため、現時点の資源高や原材料高が数ヶ月遅れで、消費者に影響を及ぼします。簡単に解消する見込みが立てにくい点も憂慮されます。

 

企業であれば、価格転嫁を如何にスムーズに対応できるかがポイントです。個人の場合は、解決策や対応策は限定的で、消費減退は避けられないように感じています。

 

米国では、長短金利の逆転現象、逆イールドが懸念されています。中央銀行が短期金利を上げても、原則、市場に委ねられている長期金利(最近は例外が増えましたけれど)は景気後退を想定して金利低下生じるということです。スタグフレーション(インフレ下の不景気)が近づいているリスクですね。

 

これは、逆イールドになるとスタグフレーションが発生するというよりは、スタグフレーションの可能性が高まることにより、長期金利が低下し、結果として逆イールドになるというロジックだと私は考えています。

 

実は、米国よりも日本の方がスタグフレーションのリスクは高いのではないか?と私は感じています。コロナ前から景況感は決して良くなく、今春、政府が企業に賃上げ要請をしていましたが、消費が拡大する印象が持てません。

 

地政学リスクや食料を含めた安全保障の見直しなどが急速にグローバルで進むことが考えられます。単純に物価が安定するかどうかという以外の要素も考慮しなければならないかもしれません。どの程度の期間でインフレが収まり、安定成長に戻るかと言えば、今のところ、目処がつかないように感じています。

 

これらを踏まえ、個人で出来る防衛策を考えてみましたが、インフレに強い資産を持つこと、外貨資産を一定程度、持つこと位しか思い浮かびません。資源高やインフレが追い風になるような企業に転職するなんて、現実的ではありませんね。

ストックの部分(保有資産)では多少、対応ができても、フローの部分(収入や支出)では、影響から逃れられません。グローバルな政治、経済の流れを見ながら、対策を検討してゆくほか、ないように感じています。

 

今回のブログはかなり悲観的な見方になってしまいましたが、

私の感じているスタグフレーションのリスクが杞憂で終わることを期待しています。

 

 

次回は、「投資家にとって、自社株買いと配当とどちらが良いのか?」の予定です。

 

 

当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。

いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。

内容、ご相談に関しましては、株式会社 Noble principleまでお問い合わせください。