マーケット急落時に個人投資家で出来るヘッジ手段の印象

 

 金融マーケットが不安定になると、相場下落をやわらげるヘッジ手段に注目が高まります。ITバブル崩壊時やリーマンショックの際は、個人投資家ができるヘッジ商品は、かなり限定されていた記憶があります。(記憶違いだったらすみません)

うまくいくかどうかは、別として、多様なヘッジ型商品が提供されてきて、投資家の判断でリスク回避が可能になっていることは、好ましく思います。

 

具体的な取引(商品)としてピックアップすると、ブル・ベアファンドやブル・ベアETFなど、信用取引の売り建て、株式先物オプション、VIX連動ETFなど、が挙げられます。但し、商品性やリスク特性、留意点を踏まえないと、ヘッジどころか、そちらのポジションで大火傷を負うこともあり得ますので、ご注意ください。(商品性やリスク特性、留意点を踏まえていても、大火傷するときは少なくありませんが、)

 

 特に取引によっては、理論上、最大損失が無限大となりうるものもあり、十分な知識とリスク管理が重要になります。従来からある信用取引の売り建ては、対象株式を信用取引を通じ、新規の売り建て(株式を借りて)を行い、下落した際に買い戻しすることで利益を確保することが可能となります。下落相場では、一定の効果があることは間違いありません。しかし、対象株価が上昇すると損失となり、株価上昇には上限がないため、損失は無限大となります。(正確には、期日があるのでそのポジションだけでは無限大にはなりません)相場格言に「買いは家まで、売りは命まで」というものがあります。信用取引の買い建てで損失が膨らむと家を手放さなくてはならないほどの大損になるケースがあり、一方、信用売り(空売り)の場合は、家はおろか、命まで失うレベルの損失を被る可能性があるという教えです。

 

こういった取引には期日(決済期限)があるものも多く、損失が現実に無限大になるかは、やや議論の余地はありますが、株式先物の売り建て、信用取引の売り建て、株式先物オプションのショート(売り建て)は、損失の上限がありません。信用取引の買い建ては最悪、株価がゼロになるということで最大損失額は推定できますし、株式先物オプションのロングポジション(コール、プットとも)は、投資したプレミアムがゼロになるだけ(掛け捨ての保険のようなイメージですね)です。ブル・ベア投信やETFは、期日がない点、また、損失が無限大にならない点が他のヘッジ取引と異なる利点であると私は認識しています。

 

ブル・ベアに関しまして、「ブル」というのは、雄牛のことで、角を下から上に突き上げるイメージから上昇を意味し、「ベア」は。熊が爪を下に突き落とすイメージから下落を意味します。

対象指数が上昇するときは、ブルが上昇し、ベアが下落します。

下落時は、逆の値動きでベアが上昇します。ブル・ベアの投資信託やETFは、そのような商品特性を持っています。

 

基本的にベア系のポジションは、相場の下落にベットするもので、ベア・ファンド、ベアETF(相場の下落で儲かる)を保有することで、既に保有している資産の含み損の増加をトータルでは、一定程度、カバーすることが可能になります。もちろん、ベア系商品だけに投資し、マーケットの下落局面で利益を獲得することも可能です。また、ダブル・ベアやトルプル・ベアというレバレッジが効いた商品(上げ下げの2倍値動きする、上げ下げの3倍値動きする)も登場しており、投資金額の比率を調整することでダメージ緩和が理屈の上では可能となります。個人的には、ある程度、短期で機動的な投資行動が欠かせない取引であるとの印象を持っています。

 

また、レバレッジ型ETFは、ダブル・ブル・ベアだからといって、正確に指数の2倍の値動きになるわけではありません。(売り買いの需給で2.2倍の値動きだったり、1.8倍の値動きだったりするケースがあります)その点を置いておいて、仮に、100万円の株式を保有していた場合、ダブル・ベアを50万円保有することで、マーケットの影響(ベータと言います)を概ね、排除することは理論上、可能です。但し、個別要因(アルファと言います)は、排除できません。

 

原資産(株式):100万円

ダブル・ベア:50万円(▲50万円×2倍)=▲100万円

=±ゼロ(100万円+▲100万円)

 

原資産(株式):100万円→90万円(▲10%)

ダブル・ベア:50万円→60万円(+20%)

トータル=±ゼロ(▲10%×100万円+20%×50万円)

 

あくまでも、概ねの試算です、実際には、原資産の株式が下落して、ダブル・ベアも下落することなど、良くありますね。私レベルでは、余計な取引をしたと後悔することしきりです。

 

それでは、個人投資家の立場という前提で各商品について私見を述べたいと思います。

ヘッジ目的ということで、「ベア」を前提にお伝えします。

 

 

■ダブル(トリプル)・ベア投信(ブル・ベア投信の一種)

一日の対象指数の概ね2倍(3倍)、逆方向に動く商品コンセプトです。(ETFと同様ですね)

株価指数が横ばいやボックス圏相場の場合は、コスト面、投資効率が落ちるため、長期投資には一般的には不向きとされています。(これも、ETFと同様です)

 

投資信託なので、1日の値決めが1回で終値ベースとなりますので、順張りの場合は(下落が続いている場合の購入)、相場が下落した状況で(基準価額は上昇した状況)約定となります。下落を見込んでいるにもかかわらず、更に下落した状態で約定することになります。逆張りの場合、ベアのポジションは、上昇トレンドが続くと、含み損が膨らみ、憂鬱な日々となります。加えて、商品設計上、ブル・ベアの投資信託は、償還期限までが短めということもご留意ください。(非常に複雑な商品設計上の理由なので今回は説明を省略します)

 

昨年まで米国のNASDAQ市場が上昇トレンドの際に、SNS上で話題になったレバレッジのかかったブル投信(上昇すると儲かる)が人気化していました。前述の通り、私は基本的には、レバレッジ型の商品は、短期投資の受け皿と認識しており、あまり、お勧めは出来ません。であれば、通常のNASDAQ指数に連動するインデックスファンドで十分だと思います。尚、一般的な信用取引の売り建て(例外もありますが、)や株式先物オプションのように期日がない点(決済しなければいけない期日)は、歓迎できると思います。但し、投資信託としての償還期限には、ご注意を!

 

 

■ダブル(トリプル)・ベアETF(ブル・ベアETFの一種)

基本的には、ダブル・ベア投信に類似します。投資信託とETFの相違点の通り、こちらは株式同様の取引が可能で、サラバ中は値動きし、異なる価格で取引可能です。寄付き値、引け値、高値、安値と価格が変動します。マーケットが急落した際などは、こちらの方が機動性の高さから、ベアの投資信託よりも使いやすいと思われます。但し、値動きが大きくなるケースが多いため、リスク管理が重要となり、初心者の方は要注意ですね。

この商品もマーケットが横ばいの場合やボックス圏の場合は、投資効率が落ちますので、短期のヘッジ向けの商品の位置づけだと思います。

ETFの場合は、実際の価格が見えますから、ナンピンの際も、投資総額と保有口数を計算することで、追加投資後の概算取得価格の把握が可能となります。含み損の際に追加投資することで、取得コストがいくらまで下がるのか、把握できるという意味合いです。

ETFも期日がない点を明記しておきます。

 

 

■信用取引売り建て

信用取引の売り建ては、対象株価が高い時に売却し、下落したら買い戻しを行い、株価下落の際に利益が出る取引です。現物を保有していて、同一銘柄を信用で売り建てする手法などもあります。信用取引自体、かつて(1990年代)は、証券会社の審査が厳しく、預かり資産が1,000万円以上(3,000万円以上だったかもしれません)で十分な投資経験が要件だった記憶があります。(会社によって要件は異なり、大手証券の方が一般的に厳しかった印象です)現在では、ネット証券での優待のクロス取引などが普及し、敷居は下がってきていますが、基本的には、レバレッジをかけた取引なので、一定程度以上のリスクがあり、敷居が下がったのが良いことかどうか、現時点では何とも言えません。詳細なコメントはしませんが、逆日歩や保証金維持率などにも注意が必要です。商品知識が十分でないまま、株主優待のクロス取引でスタートされた方が、背伸びしたリスクを取って、憂き目に遭わないことをお祈りします。

 

 

■株式先物

この商品は、投資可能額の小口化で、一般投資家にも門戸が開放されました。

証拠金の範囲で、レバレッジをかけて、ポジションを持つという性質です。

機関投資家がメインの取引で、基本的には、原資産(株式)を保有している投資家が、下落をヘッジするために売り建てを行うイメージだと思いますが、リスク管理がより重要で、一般の方には、あまりお勧め出来ません。私の場合は、証券会社の営業店で担当先の法人顧客の方が株式先物取引をされていたケースや自身が社内トレーニーで債券先物の取引を行った位の実務経験だけなのですが、現物の株式の世界とはまた、異なる世界で、高度な知識と経験が必要になるように思います。

 

 

■株式先物オプション

各権利行使価格に買う権利(コールオプション)と売る権利(プットオプション)があり、それらをロング(買い建て)するか売り建て(ショート)するか、という取引です。

ロングポジションに関しては、損失は投資額に限られますが、ショートポジションの場合は、コールでもプットでも損失は無限大となります。こちらも決済の期日があります。

株式先物以上に難解で、オプション料(オプションプレミアム)の理論値の決まり方などを理解できていることが、投資する最低条件だと思います。(ブラック・ショールズ・モデルという高度な数式です)こちらも、十分な経験やリスク管理の理解がない方にはお勧めできません。

 

 

■VIX ETF(東証:1552)

ボラティリティ・インデックスに連動するETFです。金融マーケットは、上昇時には、ボラティリティが低く、下落時に大きくなる傾向があります。従って、マーケットが急落し、ボラティリティが上昇すると値上がりするタイプです。東証に上場しているこちらのETFは、流動性(売買代金)がやや乏しい印象なのと、株式市場の値動きとボラティリティが連動しないケースもあり、実際に投資をすると、悩ましい局面が少なくありません。

 

 

結論としては、

今回、ご紹介した各取引ですが、損失が無限大か限定か、決済の期日の存在、リスク管理の難しさなどの点から、敢えて選択すると、個人的には、ベア・ETF(レバレッジ型含む)が相対的に使い勝手が良いように思います。次点では、ベア・投資信託(レバレッジ型含む)です。とは言え、逆に動くと含み損が拡大することは株式を含む他のリスク商品と同様ですので、投資金額の上限の設定、ロスカット・ルール(損失確定のルール)、利益確定の目処などの複数の変数を念頭に置く必要があると思っています。これらの取引を使わすに済むのが一番、良いのですが、

 

いずれにしても、ヘッジ手段が提供されていることは、投資家に取って好ましい流れだと思います。くれぐれも、取引の特性の理解とリスク管理にご注意ください。

 

次回は、「健康寿命と介護の現実」の予定です。

 

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