リーマンショックと今回のマーケット下落との類似点、相違点

 

 今年は、米国でインフレ抑制のため利上げが続き、金融マーケットも低調な展開が続いています。また、ロシアのウクライナ進行も膠着して、地政学リスクも指摘されています。

 

リーマンショックの事例を参考に今回のマーケット下落と比較してみたいと思います。

 

 リーマンショックは、2008年9月に米国の有力投資銀行のひとつだったリーマン・ブラザーズが経営破綻し、その影響で金融マーケットが大混乱に陥った事例です。当時、私は運用会社に勤務しており、連日のように投資信託の基準価額が5%以上下落し、臨時レポートが連発されていた記憶があります。

 

 伏線はあり、通常の融資を受けることが厳しい顧客層に対する「サブプライム・ローン」という融資がありました。それを証券化商品に加工し、信用リスクごとに分類すること(トランシェと言います)で、元利金の支払いに順位をつけ、投資家へ販売されていました。最優先で元利金支払いされる場合は、高い格付けを取得することができました。とは言え、元々、通常、融資を受けることのできない層への投資ですから、優先順位をつけたところで、決して、安定した金融商品とは言えないですね。経済環境が厳しくなるにつて、元利金の支払いが滞り、金融商品としてのリスクが顕在化していきました。

 

結果、2007年にフランスのBNPパリバの運用するファンドが解約不可となり、2008年3月には、米国投資銀行のベア・スターンズの経営危機につながっていきます。2000年代前半のITバブル崩壊の後、金融緩和が継続し、膨張した資金が「サブプライム・ローン」に向かっていったと解釈されました。

 

因みに2008年9月の米国政策金利は、5.25%、消費者物価指数は、4.9%でした。

2022年9月の政策金利は、3.25%、消費者物価指数は、8.2%です。

 

リーマンショックの後は、景気後退からCPIも低下し(2008年12月は、0.1%)、金融緩和も行われ、2007年12月には、政策金利は、4.75%、翌年1月には3.0%、2008年末には、0.25%まで引き下げられました。

 

 

それでは、株価推移を見てみます。

まず、2007年末基準で、リーマンショックの起きた9月末、それと12月末株価と年初来の騰落率です。これを見ると、10月以降も下げが続いたこと、年末基準だと米国株よりも日本株の下落率の方が大きかったことがわかります。実は、2009年初頭も下げが続き、落ち着きを見せたのは、2009年春以降でした。

 

S&P500 NASDAQ総合 日経225
2007/12末 1,378.55 2,389.86 15,307.78
2008/9末 968.75 -30% 1,720.95 -28% 11,259.86 -26%
2008/12末 903.25 -34% 1,577.03 -34% 8,859.56 -42%

 

続いて、今年の指標です。

諸条件が異なりますが、数値だけ見ると、9月時点での騰落率では、NASDAQ総合指数の下げがリーマンショックを上回っています。今後も米国利上げが継続する可能性が高いことを考えると年間騰落率も厳しいものになる可能性があります。

 

S&P500 NASDAQ総合 日経225
2021/12末 4766.18 15,644.97 28,791.71
2022/9末 3,585.62 -25% 10,575.61 -32% 25,937.21 -10%

 

 

 現在の経済状況は、グローバルで国や企業の負債は膨れ上がっています。かねてから、一定程度以上、負債が大きくなると、何らかのショックによって、企業や個人の犠牲のもと、負債総額は一定程度まで減少する(破綻が生じるという意味です)というサイクルが繰り返されています。

 

また、リーマンショックの際は、新興国から米国に資金回帰が起こり、為替下落や株価下落を通じて、新興国経済にも深刻な影響が及ぼされました。今回は、米国(基軸通貨国)の継続的な利上げという異なる背景ですが、新興国は通貨防衛のため、利上げを余儀なくされています。

 

今回に限らず、リスク自体は、潜在的にどの時代にも存在します。

 

 グローバル経済の免疫力が落ちている場合、何らかのキッカケで、金融危機につながる可能性、信用リスクが顕在化する可能性は否定できません。現状では、米国利上げによって、各国のリスク資産が売られているという段階で、利上げ停止でマーケットの混乱が収束することを期待しますが、不測の事態に備えておく必要は高いと感じています。

 

現在、考えられる潜在的なリスクを下に列挙しています。

少々、悲観的な見方かもしれませんが、杞憂に終わることを祈ります。

 

・ロシア、中国などの地政学リスク

・ロシアによる戦術核使用リスク

・欧州金融機関の経営危機(噂ベースですが)

・英国の財政政策、金融政策

・米国での短期間での大幅利上げの悪影響

・米国の金融政策転換の遅れの可能性(利上げ停止、利下げ開始時期の遅れ)

・米国住宅市場の動向

 

 

 過去の事例を見ると、中央銀行が短期での大幅利上げを行うと、バブルの沈静化には、一定の効果があるものの、過度の引き締めが必要以上に金融マーケットに混乱を及ぼしたこともあります。景気が底折れしてしまってから、利下げに転じても効果は限定的です。人間の健康も同様ですが、ある程度以上、病気が悪化すると悪化は止めることができても、回復が難しくなるのと同様です。

株式市場が安定を取り戻すには、利上げ停止の見通しが出てくる必要が考えられます。いましばらく、我慢が続きそうですね。

 

FRBに、適切な金融政策を推進してくれることを切に期待します。

 

次回は、今回を踏まえ、「1990年以降のバブル崩壊の事例」についてコメントしたいと思います。

 

 

 

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