円安は良いことか?

 

 2024年は円安傾向が続きますが、GW中の米ドル円の為替変動は大きなものでした。

 

4月29日に一時、160円をつけ、その後、為替介入で5月3日には、151円台まで円高が進みました。現在は、155円台まで戻っています。

 

今回は、為替について、考えて見たいと思います。

 

「円高と円安とどちらが日本にとって良いのか?」という議論は尽きません。

 

 為替は、基本的に二国間の相対的な評価と言って良いと思いますが、現状の円安は、個人的にネガティブな面が目立ってきているように感じています。我が国は、貿易立国で純輸出国として発展してきました。但し、過去の円高不況などから、工場立地の国際分散や為替のオペレーションの高度化などを通じて、為替の影響を受けにくい企業体質に変わってきています。

逆に言えば、円安→企業業績向上という単純な構図に変化が生じました。

 

 グローバルで物価上昇が継続しています。それに加えての円安ということで、輸入物価の更なる上昇が懸念されます。海外の場合は、賃金も上昇しており、米国労働統計局によれば、同国のアルバイトの平均時給は、4,000円を超えてきているようです。日本の場合は、政府の賃上げ要請で、大企業の賃金上昇が実現しましたが、中小企業まで浸透しているとは思えません。更に言えば、本来、従業員の賃金は。経営者と従業員、株主が協議して変えてゆくべきものと私は認識しています。企業の背中を押した面はあると思いますが、米国の賃金上昇とは、背景が異なる印象ですね。

 

また、国力の減退という面も見逃せません。

国別のGDPランキングでも、ドイツに抜かれ、インドにも抜かれそうな状況となりました。

GDPの評価は、米ドル建てでされるので、通貨安が反映している面もあります。成長率が見劣りした上に通貨安が進行していますから、やむを得ない事象です。

国力と為替が必ずしも一致する訳ではありませんが、国力が落ちてくる場合、為替にもネガティブな影響が考えられます。

人口減少を前提として、国際競争力のある産業の育成や付加価値の高い人材の育成などが必須だと個人的には考えています。

 

為替に話を戻します。

 

基本的に円安の場合、輸出にはプラスになりますが、輸入にはマイナス効果が生じます。

特に気になるのが電気料金です。原油価格が高止まりし、円安が進行すると、原油の純輸入国である日本にはダメージが生じます。電気料金も、この春までは、政府の補助がありましたが、今後は無くなる見通しです。夏場の電力消費や景気に対する懸念を持たざるを得ません。家庭はもちろん、企業でも工場の稼働や店舗運営に負荷がかかり、固定費の増加、業績悪化の可能性も考えられます。個人消費に関しても、電力料金の負担増で、消費減退の可能性もありますね。困ったものです。

 

海外旅行のコストが上昇するといった一面だけならば、まだ良いのですが、生活コストの上昇に密接に関連することが辛いですね。

 

また、日本企業は、外需主導(輸出企業)が多いことから、円安になると日本株高になる傾向がありました。但し、米ドル円が150円を超えたあたりから、感応度が低くなってきたように感じます。前述の通り、円安のネガティブな面も意識されているのかもしれませんね。

但し、円高に振れると株価が下落しやすくなることは、釈然としません。

 

以前のブログでも紹介しましたが、為替は様々な要因で変動します。

 

一般的には、短期的な要因として、二国間の金利差が反映されやすいとされています。

 この点は、米国が利下げを意識しているものの市場金利が高止まりしており、日本銀行は政策変更を試みていても、なかなか、利上げには踏み切れないという背景があると思います。諸事情があるとは言え、為替の面だけで言えば、早めの利上げが好ましいと思われます。

中期的な要因としては、貿易収支や経常収支が挙げられます。貿易黒字であれば、自国通貨に戻す際に通貨高につながります。

長期的には、一物一価の原則に基づき、購買力平価が重視されています。

 

それでは、別の視点で円安を考えて見ます。

 

まず、株式の海外投資家の立場です。

 

 円安が進行すると、外貨建て(主として米ドル建て)では、株価が上昇しても通貨で負けてしまいます。為替ヘッジをすれば、この限りではありませんが、基本的には、通貨安の国への投資は避けられがちです。債券投資の場合は、ヘッジをしないと、為替要因で金利収入がぶっ飛びます。一時的な通貨安は、海外投資家から見て、投資チャンスとなりますが、断続的な通貨安は、資金逃避につながるリスクが考えられます。トリプル安(株安、債券安、通貨安)という状況ですね。

 

次に社会生活への影響です。

 

通貨安になると、海外から観光客が訪日しやすくなります。

北海道や京都などでは、オーバーツーリズムとして社会問題になりつつあります。

 

 北海道の知人の話では、外国人の人気エリアであるニセコ地区のホテルが1泊あたり100万円を超えるケースがあるようです。それに加えて、1週間とか10泊以上が宿泊の条件とのことでした。また、近隣の空港からヘリコプターで移動する話もあるようです。メディアでも取り上げられていますが、ラーメン3,000円、海鮮丼10,000円の世界です。

外資のホテルが増加している一方、日本人向けの宿泊施設は閉鎖が相次いでいます。

固定資産税が高く、諸々のコスト上昇が背景と思われます。

今でも懸念材料が多いのですが、将来的に外資のホテルが撤退すると、閑散としたエリアになってしまうかもしれません。

京都では、市民の方が使っているバスが大混雑している問題も指摘されています。

観光業の方だけでなく、一般市民のことも十分配慮した施策が期待されます。

 

また、労働者の問題も顕在化しつつあります。

 

 出稼ぎではありませんが、日本の労働者が海外で短期就労することで、日本国内では得られない収入が確保できているようですね。例えば、お寿司の職人の方などは、欧米だけでなく、アジア地域でもニーズ高いようです。

更に言えば、通貨安が進行し、政治不信や税負担増加が続くと、能力のある方や資産家の方の海外移住が加速する可能性も高まります。高額納税者の方が不満を感じて、移住すると財政にも影響が出てくるかもしれません。納税能力の欠ける国民だらけになる可能性もあります。

 

海外からの労働者の方の話題も多く見かけます。

 

 失礼な言い方になりますが、通貨安の国に海外の優秀な方が魅力を感じるとは思えません。

以前、外資企業の幹部職員の方(欧米の方です)と話をしたところ、「日本は相続税が高いので、日本では死ねない、香港かシンガポールを希望する」とのブラックジョークを聞かされました。元々、税制などの構造的な問題があったところに、通貨安が加わることになりました。

 

一方、ブルーカラー的な海外労働者の方は増加中です。

通貨安だと物価が安いですからね。

 

 国内の労働力が不十分になりつつあるので、やむを得ない面があるとは言え、報道されている範囲でも様々な犯罪が起きています。特定の地域に特定の国の労働者が集まることも多いようです。海外労働者の方を悪く言うつもりはありませんが、治安の悪化が懸念されている地域も増えているようです。

 

「通貨高で潰れた国はない」と経済学者の方は話します。

インフレを伴う通貨安で苦しんだ国は、沢山あります。外貨建ての借入れを行ったことなどが原因ですが、通貨安で高金利にせざるを得ない面もあります。

それらの国では購買力の面から自国通貨が信じられなくなり、外貨保有が増加したようです。新NISAで米国株の投資信託に人気が集まっているのも、潜在的な影響があるのかもしれません。

現在の日本は、ハイパーインフレに伴う通貨安という訳ではありませんので、過去の新興国の通貨安とは異なる面があります。とは言え、それだけに通貨安が深刻な状況になりつつあるとも言えるかもしれません。

 

暗い話になりました。

一定程度を越える通貨安は良いことがありません。

社会生活への影響は、輸入材以外は直接的ではありませんが、他国でも通貨安になった国では治安が悪化したことが多いようです。間接的な悪影響も憂慮されますね。

 

為替相場の落ち着きを期待したいと思います。

 

次回は、「株式などの損切りについて「」の予定です。

 

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