投資家心理に関して

金融マーケットが荒れてくると、改めて、先人から伝わった相場格言が浸みてきます。

古今東西、投資家心理というものは、同様の傾向があり、それを戒める意味合いでも格言が伝承されているように感じています。

また、アカデミックの世界でも行動ファイナンスなどを通じて、投資家心理について様々な検証がされてきました。

 

実務の世界でも証券会社の営業店で、投資家の方や営業員の行動を見ると興味深いものがあります。

 

今回は、漠然とつつ、奥の深いテーマですが、私見を交えて、お伝えしたいと思います。

 

以下は、野村證券の証券用語解説集から行動ファイナンスの代表的な考え方、「プロスペクト理論」に関して引用したものです。

 

「プロスペクト理論により、従来の投資効用理論では説明のつかない投資家の判断行動が現実に即した形で解明された。例えば、投資家は収益よりも損失の方に敏感に反応し、収益が出ている場合は損失回避的な利益確定に走りやすい。一方、損失が出ている場合はそれを取り戻そうとしてより大きなリスクを取るような投資判断を行いやすいとされる。」

 

言い換えると、「経済合理性に基づくはずの意思決定が心理によってゆがむ」ということでしょうか?合理的な判断を心理状態が阻害するということになりますね。

 

上記の説明文に即して、具体例を挙げてみると

株式投資の勝率が高いのに、トータルでは利益が出ていないケース、損失を恐れるあまり、薄利での利益確定をしてしまう一方、含み損が発生すると損失回復のために大きなリスクをとって、更にダメージを負ってしまうケースなどです。ギャンブルの世界でも負けが込んでくるとより大きなリスクを取ってしまうケースがありますね。競馬の最終レースなどが該当するかもしれません。また、株式投資や投資信託への投資した後、徐々に含み損が増加していくと心理的な負荷が増加する一方、含み損が大幅に拡大というレベルになると、興味が薄れると言いますか、見て見ぬふりをすることが多いように思います。これは、人間の心理で不利な情報や不快な環境から現実逃避する心理が背景だと思われます。このようなケースでは、「売らなければ、損失ではない」という自己正当化につながる考え方をされる方も多く、私自身、機会損失のお話をしても耳を傾けてもらえないことが多かったです。一方、大きな含み益になった場合は、金持ちケンカせずと言ったところでしょうか?多少の上下に対する反応が乏しくなるように思います。

 

このように、人間の心理と金融マーケットとの関係は興味深い面が多くあります。

株価が上昇すると買いたくなる投資家が増加したり、株価が急落すると多くの投資家が一斉に損失確定の売却に動き、セーリング・クライマックスと言われる底値を形成したりします。出来高を伴って高値をつける、安値をつけるケースは、多くの投資家が同じような投資行動を取っていると推定できます。良く言われますが、週刊誌などで株式投資の特集が組まれるようになると、天井が近いというのは、当たらずも遠からずという印象です。実際、勇んで買った株が高値水準だったり、絶望に陥って投げ売りした水準が安値だったりは、残念ながら良く体験するケースです。「早く買わないともっと上がってしまう。早く売らないともっと下がってしまう」と考えがちです。もっとも、自分自身を振り返ると、人に助言はできても、実行できてきたかは、甚だ、疑問です。

 

私が見聞した具体例をご紹介すると、

証券会社の営業店で、支店内で有名な投資家の方がいらっしゃいました。その理由は、金融資産の大きさもさることながら、その方が投資行動をとると上昇相場の最終局面であることが多いというものでした。実際には、数回しか、目撃出来なかったのですが、普段は動きが少ない方なのですが、上昇トレンドのピークが近くなると、突如、登場され、高値で株式投資をされました。結果、間もなく、相場は下落に入っていきました。営業員でも同様のケースがあり、彼が動くと相場は逆に動くと言われていた人がいましたね。あいつが買いにいったから、利益確定しなければ、という残酷な会話がなされていた記憶があります。なまじ、営業力があると担当先の投資家の方は、迷惑この上ないですね。

 

また、こちらの話は、聞いた話ですが、証券会社のディーラー(自己売買部門)の方のケースです。異動してきたA氏は、経験を積んでも自己売買で成果が出なかったとのことで、わずかな利益を確定する一方、ロスカットを行っても、損失は拡大し、徐々に大きな損失になったそうです。上司の方は、一考を講じ、「勝とうとして、それだけ負けるのだから、枠を与えるので、損失を目指すトレードをせよ」と命じたそうです。真面目な方だったのでしょう。それを真に受け、一生懸命、損失を目指すトレードを行ったようですが、結果は、利益が積み上がったそうです。職業で金融マーケットに対峙していても、あまり、一般投資家の方と変わりませんね。

 

投資行動には金融知識や経験もさることながら、ある意味、精神力が必要だとも感じます。含み益が出ている水準で、簡単に利益確定せずに我慢して利益を積み上がるような投資戦略などです。もちろん、我慢した結果、マイナスになるケースも少なくありませんが。個人的には、同じ我慢でも含み損のケースで、株価が回復するまで我慢するよりも含み益状態で利益確定せずに値上がりを積み上げることの方がトータルで成果につながりやすいように感じていますね。とは言っても、一日の中でも、流れが二転三転するケースも多く、柔軟に戦略変更することも重要ですけれど。

 

「配当や優待の権利確保まで、あとわずかなタイミングで、少しの含み益の状態。利益を確定するか、配当、優待の権利を確保するか」、悩むところです。私は、基本的には保有を継続しましたが、配当落ちのタイミングで大幅安という局面が何度もありました。「獲得できる配当以上の株価下落で、事前に売却しておけば良かった」と思わなくはないですけれど、良い銘柄であれば、時間が解決してくれるので、しばらく、我慢していれば株価は回復することが多かった印象です。

 

また、長期保有できた方が投資成果につながりやすいと言われていますが、「良い銘柄×長期投資」は成果が上がりますが、「冴えない銘柄×長期投資」は、報われる可能性が乏しくなりますので、ご注意を。

 

昨今のマーケットでは、金融緩和で大きく上昇した銘柄が逆に、上昇分以上を吐き出すような下落がありました。マクロ的な大きな環境変化の際は、影響を見極めることが大事ですね。株価や基準価額が倍になったら、半分、利益確定して投資元本を回収するなどの戦略も状況次第では、検討したいところです。

 

ここまでの内容とやや、矛盾してしまいますが、最後に相場格言についてです。

「利食い千人力」という格言があります。「利益確定しなければ、利益ではない。欲張らずに利益確定すべし」という教えです。

「頭と尻尾はくれてやれ」、「見切り千両」という格言も近いエッセンスですね。損益を確定して現金を確保できるし、翌日以降に仕切り直しをすれば良いという意味合いと理解します。トレード手法や投資スタンスは、各々の投資家の方で異なると思いますが、これらの格言は一考に値しますね。そもそも、格言ごとに矛盾したものも少なくないですけれど。

 

昨今の流れもそうですが、荒れた金融マーケットでは、投資家心理が影響して、合理的な意思決定が難しくなるケースが少なくありません。私自身、精進が足りていないため、反省の日々です。

 

 

次回は、「トータル・リターン検証 J-REIT、インフラファンド編」の予定です。

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