以前、受験したPB試験(プライベートバンキング)の内容で印象に残っている日本と香港、シンガポールの税金事情について、ご紹介したいと思います。
政府の金融所得税の議論の中で、海外での金融商品に係わる課税についても参考にされているようですね。実際のところはどうなのでしょう?
また、欧米企業のアジア拠点が香港やシンガポールにシフトした背景についても考えてみたいと思います。
尚、本来、各国の課税に関しては、包括的な税体系を把握する必要がありますが、個別の事象のご紹介レベルですが、皆さまの参考になれば、幸甚です。
日本 | 香港 | シンガポール | |
所得税 | 最高税率:45%(国税)+住民税10%(地方税)
=55% 【累進課税】
全世界所得 |
最高税率17%か
平均税率15%の選択制
国内源泉所得 |
最高税率20%
【累進課税】
国内源泉所得 |
法人税 | 35.64%(法人税+地方税) | 16.5% | 17.0% |
消費税 | 10.0% | なし | 7%
(2023年から8%) |
相続税 | 最高税率55%【累進課税】 | なし | なし |
有価証券の譲渡益課税 | 15.315%(所得税)+5%
(住民税)=20.315% |
なし | なし |
利子所得 | 20.315% | なし | なし |
これらを俯瞰すると、特に所得税、法人税、相続税、有価証券の譲渡益課税の違いが鮮明になってきます。
特に最高税率55%の所得税と相続税の負担感が大きいですね。毎年の所得にかかる所得税率と長期にわたる資産形成の結果、獲得した財産に対する相続税率を考慮すると、2世代、3世代の期間であれば、負担した税額に関して相当程度の差が生じてきます。
【所得税】
ご存じの通り、日本の所得税は累進課税で、最高税率は45%(国税)と住民税10%(地方税)の合計55%です。あるレベルを超えてくると、手取りが額面の半分以下になってしまうレベルです。また、やや専門的ですが、全世界所得が対象となっています。
香港の場合は、最高累進税率17%、または、平均税率15%のどちらかを選択できる制度です。国内源泉所得が対象となっています。
最高累進税率が17%としても、日本の55%と比べたら、非常に良心的に感じますね。
日本の利子所得や有価証券の譲渡益課税の税率よりも低い税率です。
シンガポールでは、累進課税で最高税率が20%です。
国内源泉所得が対象となっています。
【法人税】
日本は、国税と地方税で35.64%です。
香港は、16.5%、シンガポールは、17%です。
以前は、外資企業のアジア・パシフィック地域の拠点に東京が選ばれることが多かったのですが、21世紀に入って以降、各社は拠点を香港やシンガポールへのシフトしていった記憶があります。政府が東京を金融都市にするという方向性を打ち出しましたが、根本的に税負担や英語の普及度合いなどの社会的インフラを考えると、欧米企業が香港やシンガポールを選択するのも納得ですね。
本音かどうかは、別として、以前の職場で英国人の上級幹部が「日本では死ねない」と言っていた記憶があります。理由は、相続税の負担が高いので、日本で死んだ場合の相続税率を考えると他国で死んだ方が良いというシビアな回答でした。抜本的な社会制度の見直しを目指すのであれば、経済的行動の根幹に係わる税制改革は欠かせないように感じています。
海外の労働力の確保を目指すにしても、欧米人の感覚は、上記の英国人の方のようなケースが多いのでは?と思います。
【消費税】
日本は、10%です。かつては、社会保障の財源にするといった議論があった記憶がありますが、実際は、一般財源化されてしまっていますね。
香港には、消費税はありません。シンガポール7%です。(2023年より8%になる予定)
【相続税】
我が国の場合、相続税も資産額に応じ、累進した税率になっています。最高税率は、55%です。香港、シンガポールは、どちらも、相続税はありません。
コロナが蔓延する前に、知人を訪ねて、香港に行った際、ドイツ車の高級グレードや米国のテスラに現地の若者が乗っている光景をよく見かけました。背景を聞いたところ、相続税がないため、相続を受けた資産リッチな若者が多いのでは?との話でした。関税の優遇などの背景も考えられますし、富が世界中から集まる国と地域ですから、ご自身の収入かもしれませんが、それでも所得税率が低い点、相続税が無い点はうらやましいですね。
【株式譲渡益課税、利子所得】
日本では、復興税込みで20.315%です。
香港、シンガポールとも非課税です。
政府の金融所得税の議論がありますが、これらの地域での現実は、非課税です。
それであれば、NISAやiDeCoのような制度自体不要ですね。
日本の税体系は、「所得の再分配機能」という面があるとは言え、毎年の所得に対して所得税が課税され、更に長期にわたって、資産形成した成果の資産に対しても相続税が課税されます。このような税体系が、グローバルで優秀な人材確保という点で、国際競争力確保の点でも、現状、妥当かどうか、議論の余地がありそうですね。グローバル化が進展している現在、優良な企業も優秀な人材も、より条件の良い国や地域で活躍できるようになってきています。もちろん、徴兵制などの付随する負担も考慮する必要はあると思いますが、
企業も個人も可能であれば、経済活動を行うにあたり、税負担の小さい国や地域を選択するのは、合理的ですね。十分な受益があれば、税率が高いのは、やむを得ない面があるとしても、歳出の検証や規律が不十分だと納税者としては、不満が生じますね。ハードルは低くないとは言え、今後、優秀な人材の海外流出や資産をお持ちの方が海外への移住などが増加すると、我が国の空洞化が加速し、更なる競争力の低下につながらないかと、老婆心ながら心配になります。
次回は、「利上げする国、利上げしない国」を取り上げたいと思います。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
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