禁断の?個別の投資信託に関する私見その3

 

ようやく、米国株式市場が落ち着きつつあります。

当面は、「景気」、「インフレ」、「金利の動向」に左右される展開が想定されます。難しいのは、各ファクターのバランスによって、異なる影響を金融マーケットに及ぼす可能性が高いことです。景気が良好ならば、株式にプラスですが、金利上昇を通じて、株式にブレーキをかけます。景気が悪化ならば、株式にマイナスとなりますが、金利低下を通じて、株式にプラスとなります。インフレも金利と連動して株式市場に影響を及ぼします。今夜の米国雇用統計とISM非製造業景況指数にも注目です。

 

前回、前々回に続いて、個別投資信託についてのコメントです。

 

純資産上位ベスト10のファンドについてコメントさせて頂きましたので、今回は、純資産上位で気になるファンドを中心にお話をしたいと思います。

 

純資産ベスト10には、入っていませんが、今回は、以下の3本についてです。

左の数値は、純資産の順位です。

 

12.東京海上・円資産バランスファンド(毎月)「円奏会」(東京海上):526,857百万円

17。ひふみプラス(レオス):441,251百万円

34.グローバル・プロスペクティブ・ファンド(日興):300,466百万円

 

まず、「東京海上・円資産バランスファンド(毎月)「円奏会」」から。

ファンド名の通り、東京海上アセットマネジメントが運用する円資産バランス型ファンドです。4月末基準価額:9,943円で、信託報酬は、0.924%、コストに関しては、まずまず、妥当な印象です。

 

このファンドは、円資産のみに投資を行うので、直接的な為替リスクはありません。具体的には、「日本債券」、「高配当日本株式」、「日本REIT」に投資し、基本配分比率は、「70%+15%+15%」です。マーケットの変動が大きくなった際(下落局面)には、比率を「70%+2.5%+2.5%+短期金融資産最大25%」に変更できる資産配分可変型のバランスファンドです。

 

その資産可変型タイプですが、平常時は、順調に推移するのですが、マーケットの混乱時には、必ずしもうまく機能せず、下落時の比率の変更が遅れてしまうケース、具体的には、マーケット下落の影響を受け、基準価額が下落した後に配分変更を実施したこと、逆にリバウンド局面で基本配分に戻すタイミングが遅れてしまって基準価額の回復が遅れることがありました。2012年にファンドが設定されてから、安定したパフォーマンスを維持してきましたが、2020年頃より、パフォーマンスが悪化しています。背景は、前述の通り、市況悪化の際の比率変更の遅れとリバウンド局面での基本配分への変更の遅れが影響しているように感じます。

 

直近分配金は、30円(年間:360円)で、分配金利回りは、約3.6%(360円/9,943円)です。「日本債券」のパーツが直利で0.69%、「高配当日本株式」のパーツの配当利回りが2.95%、「日本REIT」のパーツの予想利回りが3.75%ですから、基本配分ベースだと加重平均で1.49%程度のインカムとなります。若干、分配水準がインカム水準を上回りますが、許容できる範囲だと思います。累積の分配金は3,120円を超えており、再投資していれば13,000円程度の基準価額だったと推測できます。

 

過去の基準価額高値の12,000円程度を回復するためには、株式とREITの大幅上昇が前提となりますね。為替リスクを排除するという特徴は、円高局面には良いのですが、円安メリットが直接的にはありませんし、現状、円金利の水準が低いままなので、日本債券のインカムが限定されているのも、厳しいところです。

 

同ファンドに限らず、バランス型のファンドは、大きなマーケットの下落局面と回復局面で苦戦したケースが少なくありません。リーマンショックの前夜も、バランス型ファンドの人気が高く、純資産も増加していましたが、強烈な急落下では、資産ごとの相関が崩れ、リスク資産総崩れになるケースが生じ、バランス型ファンドも相当のダメージを負いました。また、リバウンド局面で、基準価額が順調に回復するかと言うと、債券比率が高いため、株式ファンドなどと比べ、基準価額の回復が遅れたことで人気が離散した記憶があります。

 

マーケットの混乱時には、通常のリスク管理では対応できないケースがあり得るところが、商品設計上、難しいところですね。マーケットの下落局面だけ影響を受け、回復局面ではリカバリーできないケースなどは、運用コンセプトとして理解できても、受益者の立場ではフラストレーションが溜まりますね。

 

東京海上・円資産バランスファンド(毎月決算型)(愛称:円奏会) | 東京海上アセットマネジメント (tokiomarineam.co.jp)

 

 

次は、「ひふみプラス」です。

レオス・キャピタルワークスの運用する内外の株式に投資する株式ファンドです。4月末では、基準価額が44,802円、純資産額が4,437億円です。信託報酬は、純資産の水準ごとに低減してゆく段階方式ですが、ベースは0.98%とアクティブファンドの中では良心的な水準です。

このファンドは、2012年に設定され、約10年で基準価額は4倍超となっていますが、ここ数年、配当込みTOPIX対比でパフォーマンスが優れません。元々、同社は、国内小型株に強いという特徴の運用会社で、良好な運用成績だったのですが、ファンドの純資産が大きくなってきたために、米国株の組み入れを開始し、国内株も、時価総額の大きい有名銘柄主体となってしまいました。また、当ファンドの特徴として、ダイナミックに現金比率を調整する点もあります。下落が想定される場面では、現金比率を高めるようなオペレーションです。これが常にうまく行くかどうかは、別問題ですが。

 

月報ベースでパフォーマンスチェックをすると、過去3年間の期間でどの期間もTOPIX(配当込み)のパフォーマンスに劣後しています。ここでも、従来の特徴が薄れている印象です。

 

以前、TVのドキュメンタリー番組で取り上げられたのが、同社のファンドの人気化のキッカケでした。個人的な意見ですが、小型株に強いという特徴を維持するためには、一定水準でファンドをソフトクローズ(新規買付け不可)にして、別ファンドを立ち上げる手もあったのかな?と感じたりしています。

 

小型株主体の運用だと、パフォーマンスや運用コンセプトを維持するためには、どうしてもファンドの純資産に制約がかかります。私の感覚だと、100億円から150億円程度が限界に感じています。経営上は、純資産が大きい方が良いのですが、大きくなると超過収益の確保が困難になってきます。既存の受益者への配慮を考えると、企業戦略的なバランスが難しいところですね。

 

ひふみプラス | ひふみ (rheos.jp)

 

 

最後に「グローバル・プロスペクティブ・ファンド(愛称:イノベーティブ・フューチャー)」です。

こちらは、日興アセットマネジメントが設定する米国のハイパー・グロース株に投資をする株式ファンドですが、銘柄選択の調査や運用は、同社の親密先である米国のARK社が担っています。4月末で基準価額が11,957円、純資産額が3,820億円です。2021年の初めには、基準価額が30,000円を超え、純資産額も1兆円を超えていました。結果論ですが、高値で投資をしていた場合、下落率は60%を超えています。仮に長期投資前提でも精神的なダメージが重いですね。

 

信託報酬は、1.58%(税抜き)以内で、運用コンセプトを考えると理解はできるのですが、やや高い印象は否めません。

 

このファンドは、グローバルにイノベーションを起こすような銘柄に投資をするコンセプトです。現在も米国中心に、新しい企業や技術が誕生し、新陳代謝も進展し、各企業も株主価値の拡大を目指しているのは事実ですが、私は、本質的なイノベーションが常に出現し続けるかという点に、やや疑問を感じています。小さなイノベーションの出現は常にあると思うのですが、「グローバルでの価値観を変貌させるレベルのものは、数年か十数年に1回程度ではないのかな?」などと私レベルだと思ってしまいます。

 

このファンドは、2020年まで、驚異的なパフォーマンスでした。2021年以降は、米国の金融引き締めの影響などからパフォーマンスは大幅に悪化しています。組み入れ銘柄は、テスラやズーム、コインベースなどが中心です。外部環境から株価が大幅調整したのはやむを得ないと思いますが、ARK社関連のファンドは、他ファンドを含め、上位銘柄が固定化され、銘柄の入れ替えが少ないような印象です。アクティブファンドのFM(以下、ファンドマネジャー)は、特定の銘柄にこだわるケースが少なくなく、現在のような投資環境だとハイパー・グロース系銘柄の下落が止まらないので、パフォーマンス面での厳しさは増してしまいます。

 

FMが投資哲学を全うすることは重要で異論はありませんが、投資環境と哲学がマッチしないケースが発生することは常に考えられ、その際の対応で真価が問われますね。将来が嘱望されている銘柄であっても、決算内容が期待を下回った時などは、ウエイトを落とすことや別の銘柄に資金をシフトするなどの方策を受益者としては、とって欲しいものです。

 

パフォーマンスが厳しい一方、様々なレポートが発行されていることは好感できます。

 

基準価額の回復には、米国の利上げ停止やインフレの沈静化によるNASDAQ市場に対する投資家心理改善が必要だと思いますが、FRBの量的引き締め開始の影響がどのように出てくるかに注目ですね。

 

グローバル・プロスペクティブ・ファンド | 日興アセットマネジメント (nikkoam.com)

 

 

今回のファンドに限らず、内外の小型株ファンドに共通することですが、基本的に投資対象銘柄の流動性が大きくないケースが多く、ファンドの資金流入が大きい場合、株価水準が高値圏でも買わざるを得なく、逆に流出が大きい場合は、株価水準が魅力的で買付けをしたい場合でも、売却せざるを得ない宿命があります。ややもすると、ファンドが買うことで株価を上昇させてしまい、売ることで株価を下げてしまうことにもなりかねません。ファンドに対する資金フローでポートフォリオ構築に影響が出てしまいます。専門家なので、そこは上手にコントロールしなければいけない分野なのですが、構造的に難しい面があります。投資の前にこのような小型株のファンドの特徴を理解しておきたいものです。

 

昨年から、株式アクティブファンドもバランス型ファンドも運用面で苦戦が続いています。インデックスファンド全盛の風潮ではありますが、商品設計や運用面での工夫などで、存在感を高めて欲しいものです。

 

次回は、「投資家心理に関しまして」の予定です。

 

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