私は、その昔、証券会社の法人部門での勤務経験があり、会社四季報や会社情報は、欠かせない情報源でした。特に株主関係に注目していました。投資家の皆さんとは、やや異なるアプローチだと思いますが、そんな見方もあるのかという視点でお付き合いください。
投資家の立場で優先順位が高いのが業績欄だと思います。ザックリした業績の方向性などの把握に役立ちますね。他にも、四季報や会社情報は、参考になる情報が多く、今回は、それらの一部についてコメントします。
【株主欄】
株主構成は、企業の成り立ちや今後の戦略などを推測するに当たり、参考になる情報が得られることが少なくありません。かつて、私自身、法人部門の営業職だった際には、自分と対象企業との間に株主関係や取引関係を通じて、何らかの接点を探した記憶があります。
四季報の会社紹介の中央部に株主欄があります。どのような株主構成なのかは、様々な角度から経営の安定性や株式の需給などの推測ができます。(あくまでも、推測ですが、)特に、上場して間もない企業を見る際には、個人的に必ずチェックする項目です。
株式の持ち合い解消が進展したため、国内の事業会社や金融機関の名前を上位で見る機会が減りました。それでも、株主欄をチェックすると、取引先やメインバンクが上位株主になっているケースがあり、投資信託や年金資金の窓口である信託銀行の信託口などの名義も見られます。企業規模や歴史にもよりますが、有名企業が上位株主になっていると信用補完の一面がありますね。
一方、株主提案などを行うファンドなどが上位株主に出てくるケースもあります。その場合、何らかの提案が経営陣に行われる(行われた?)可能性があると推測できます。株価変動と上位株主に登場したタイミングの把握の確認が重要になるケースも考えられます。なかには、TOB(公開買い付け)などにつながるケースもあるかもしれません。
年金の運用は長期が前提なので、保有比率が頻繁に変わる可能性は低いと思いますが、投信の方は、株価上昇や業績下降などで売却するケースも考えらます。その点では上位株主の安定性がやや欠ける気がします。見方を変えると、上位に投信の名前がある場合、FMは、超過収益を獲得するために企業に投資する訳ですから、株価水準は別として、その企業を魅力的であると認識している可能性が高そうです。
上場間もない企業に見られるベンチャーキャピタルが株主の場合は、一定期間後(ロックアップと言います)、売却可能となるので、市場で売却するかどうかは別として、発行企業は新たな株主を探す必要がありますね。売却方法によっては、需給関係が悪化し、株価が波乱含みになる可能性も考えられます。
また、何らかの理由で株価が大きく上昇、下落した場合、上位株主の株価にも影響を及ぼすこともあります。大きく上昇した場合は、上位株主の含み益が増加する、大きな下落の場合は、減損処理をするケースなどを通じて株式保有会社の株価が反応することもあり得ます。
個人株主が上位に位置している場合は、創業家一族なのか、役員なのかのチェックをします。一族では無い場合、何らかの理由があると思われますので、必要に応じて情報確認をします。
結局、わからないことが多いですが、
自社が上位に位置しているケースでは、自社株買いの償却前の状態であると推測できます。
中長期で見ると株主構成も大きく変化することがあります。特にアクティビスト(株主提案などを行う投資家)が登場すると、株価も波乱含みになるケースが考えられます。
と言うことで、株主の顔ぶれをチェックことにより様々な可能性が見えてきます。
【取引銀行、取引証券】
会社案内の右下に記載があります。基本的に、メインバンク、準メインバンクという親密さの順番で記載されています。証券会社は、主幹事証券、幹事団という順番で、基本的には資金調達の際のシェア順になっています。
その企業が財閥系の金融機関と親密なのか、独立色の強い金融機関(例えば、ネット証券)と親密なのか、などの確認ができる分野です。過去の企業破綻や金融危機の際のケースを思い出してみると、大手金融機関がメインバンクや主幹事証券だからと言って、安心できるとは言えなかった記憶があります。発行企業に様々なアドバイスや提案が行われているはずですが、それだけでは財務戦略が万全とは言えないように思っています。
ある企業グループの事例ですが、親会社A、子会社B、グループ会社Cとあって、A社とB社、C社の主幹事証券が異なるケースがありました。B社が上場する際に、先に上場していたA社の主幹事証券にB社も主幹事証券になってもらう旨の依頼をしたようですが、A社のガバナンス自体に疑念を持った主幹事証券は、B社の主幹事を辞退したようです。同様にC社の上場の際、同様の理由でA社の主幹事証券、B社の主幹事証券とも辞退したようです。このようにグループ会社で、主幹事証券が異なるケースは何らかの理由が考えられます。
投資に際し、特段の理由が無ければ、あまり、触れたくない銘柄群ですね。
【仕入れ先、販売先】
会社四季報の右下、取引銀行、取引証券の下部にあります。
ここの欄で、主要取引先が確認できます。販売先の業績が悪化している場合や販売先の支配力が強い場合、その影響が売上げ、営業利益率(値下げ交渉などがあった場合)に反映されることも考えられます。場合によっては、株主欄に名前が載ってくることもあります。
【連結事業、海外売上げ比率、輸出比率】
一番右の社名と特色の後半に記載があります。
連結事業を見ることで、本業と別にどのような分野に関連会社を保有しているのかイメージがわきます。また、海外売上げがある場合、売上げ比率の数値が確認できます。輸出がある場合も記載があります。我が国の経済成長率を考えた場合、グローバル展開の方が、企業の売上げや利益に寄与しそうなイメージはありますね。もちろん、様々なリスクも内在していますが、
【業績欄】
投資家の立場では、一番重要な項目ですね。
有価証券報告書や決算短信を見るよりも、簡易に全体像を把握できることがメリットだと思います。過去の売上げ推移、営業利益の推移、配当の推移など、時系列に記載されています。業績が安定している企業はもちろんですが、急回復する見込みの企業などを見つける楽しみもあります。
また、予想配当などの記載もあるため、配当狙いのインカム・ゲイン投資を検討する際には、参考データとして活用できます。
尚、企業の業績見通しなどに関するコメントは、私が知りうる限り、当該企業にインタビューが必ず行われているのか、やや疑念があります。必ずしも、正しくない情報が記載されているケースや企業戦略に関する解釈が異なるケースも以前からあるようですね。
業績予想に関しては、アナリストの予想を参考にしていると思われますが、この点に関しては、発行企業のIR情報や証券会社のレポート、有価証券報告書などでも確認した方が望ましいと思います。
【株主優待】
中央上部やや左の株式欄に、株主優待がある場合は、優待の記載があります。
優待銘柄を探してゆくアプローチとは異なり、こんな銘柄も優待をしているのだという意外な発見がありますね。
もっとも、株主優待に関しては、後半のページをかなり割いて、銘柄コード順に(基本的に業種ごとに)優待企業の紹介をしています。記載があっても、優待を受けるために保有期間が条件になるケースもあるため、詳細に関しては、該当企業のHPでも確認した方がベターですね。業種ごとにどのような企業が株主優待をしているのか、というチェックに役立つコーナーです。
今回は、会社四季報の見方についてのコメントでした。
類似企業を比較してみたりすると、思わぬ発見があったりします。
気になる企業だけでも、読み込むことでその企業の全体像が見えてくると思います。
なかなか、企業のIR情報を追いかけるのも手間がかかるので、四半期ごとの状況把握に役に立つ情報源だと思っています。マニアックですが、鉄道の時刻表を見るのが好きな方と四季報を見るのが好きな方には、共通点があるようにも感じています。
次回は、「対決! テクニカル分析VSファンダメンタル分析」の予定です。
当ブログは、毎週金曜日に更新予定です。
いつもながら、投資に際しましては、自己責任でお願いします。
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