今回は難解なテーマを取り上げます。
沢山の異論がありそうですが、こんな見方もあるという感じでお付き合いください。
以前のブログで「自宅は自己所有か、賃貸か?」というテーマを取り上げましたが、今回と重複する点があります。
自宅を含む不動産は、相続の際、相続財産として相続税の課税対象となります。また、毎年、固定資産税や都市計画税の対象となり、当然ながら、税法では、資産として認識されています。
以前、ベストセラーになった「金持ち父さん、貧乏父さん」の事例ではありませんが、「キャッシュフロー【現金収入】(CF)を生むものが資産である」という前提を置くとどうでしょうか?自宅なので基本的にCFは、生じません。
預金であれば、金利が低いとは言え、僅かながらでも利息が生じます。また、有価証券であれば、配当や利子、場合によっては、値上がり益も得られるかもしれません。不動産でも投資用不動産、言い換えると、賃貸物件として所有すれば、空室リスクなどはあるものの、賃料というCFの獲得が可能です。一方、人的資産も有力な資産として考えられます。人的資産は、長期にわたる労働を通じて、対価として収入の獲得(CFの獲得)が可能です。生涯賃金を考慮すると健康で年齢が若い人ほど、人的資産は大きいとみなすことができると考えられています。将来にわたる収入の現在価値がシニア層の方よりも大きいという解釈からです。もっとも、シニア層の方は、蓄積した金融資産や他の資産をお持ちのケースが多く、以下の式が一般的にはあてはまるとされています。例外は、もちろん、ありますけれど、
人的資産+金融資産+その他の資産=一定(年齢によらず)
※相続、贈与は考慮しません
一般論として、若い方は、金融資産やその他資産はあまり多くありませんが、人的資産の現在価値が大きくなります。シニア層の方は、人的な資産価値は小さくなっていますが、金融資産などの資産を多く保有されている傾向があり、一般的には総和は一定であるという関係式です。
自宅の話に戻ります。
まず、自宅の不動産価値の推移についてです。
住宅ローンを組んで自宅を購入する場合、「賃貸物件に住むのと同水準のローンの支払いで済むのであれば賃貸よりも自己所有の方が良い」と考える方や「ローンが終われば、晴れて完全に自己所有となる」と考える方もいらっしゃるかもしれません。前述の「金持ち父さん、貧乏父さん」では、ローンを組む以上、自宅は負債であるとも述べられています。
財務会計的なアプローチから個人の貸借対照表(バランスシート)を考えると、例えば、RC造(鉄筋コンクリート造)の区分マンションを購入したとします。所有権は移転し、法的な所有権は明確です。会計的には、資産の部にマンション、負債の部に住宅ローンという仕分けになりますね。年数と共に、負債の部の住宅ローンが減少していきますが、資産の部のマンションの建物部分も減価償却で価値が減じていきます。仮に35年の住宅ローンを完済すれば、負債の住宅ローンは消滅しますが、資産の部のマンションの建物部分はかなりの減価が生じます。(減価償却で価値が下がるという意味合いです)RC造の建物の法定耐用年数は、47年ですから、残りは、12年になります。その時点での、当該不動産に限った純資産は、期待するほど、大きくない可能性があります。尚、土地に関しては、減価償却しませんから、その時の時価評価となります。
住宅ローンを終えた後の自宅の価値は、少なくとも建物部分の価値はかなり減価していて、特別な立地でないと購入時に近い価格での売却は困難が想定されます。(土地価格が変わらなくても)また、新築住宅の場合、都心でも郊外でも地方都市でも、建物の建築コストは基本的に同一です。従って、購入価格に占める建物部分の比率は郊外や地方都市の方が高くなります。建物は減価償却で価値が減じていきますから、都市部よりも郊外や地方都市の不動産の方が将来的な価格下落率は大きくなることが考えられます。
次に自宅に関わるコストに関しての視点です。
コスト面で考えると、固定資産税などの租税公課は、保有している限り負担しなくてはなりませんし、区分マンションなどの場合は、修繕積立金や共益費などの負担も継続します。一般論ですが、戸数が少ないマンションの方が一戸当たりの修繕積立金や共益費が高くなる傾向があります。また、敷地内、近隣に駐車場を確保する場合、そのコストもかかりますね。住宅ローン返済中も完済後も永続的にコストがかかってくることを改めて、認識しておきたいですね。
また、マンションにお住まいの方は、ご存じの通り、新築から15年から20年を経過すると水回りが痛んで、修繕が必要になるケースが少なくありません。それ以外にも大規模修繕や場合によっては、立て替えなどが発生する可能性もあります。マンションによっては、修繕積立金が不足し、追加の資金負担が生じるケースもあるようです。築年数が経ったマンションは、共用部分も含め、「金食い虫になる」と言っている方もいらっしゃいますね。
将来的な売却に関する視点です。
不動産ならではですが、いざ、売却しようと思った際に、現金化に時間がかかったり、希望の価格での売却が難しかったりするケースも想定しておく必要がありますね。特に人口減少が今後、加速していくことも指摘されています。私の知人達も相続財産の実家の売却に苦労していました。
また、住宅ローンも長期間にわたりますので、経済動向が大きく変化し、ご自身の勤務先の状況が変わることや仕事の状況が変わることも考えられますし、20年から30年後という将来ですから、人気のエリアが大きく変化している可能性もあります。もっとも、このような不確実性を気にしすぎたら、不動産に限らず、何もできなくなってしまいますけれど。
余談ですが、ローンを組んで、ご夫婦で自宅を共有名義にされるケースもあるようです。
将来、不幸にして、離縁された場合、不動産は分割できませんから、権利関係が複雑になり、ご苦労された話なども耳にしたりします。
自宅が一般論で資産であることは、間違いないのですが、「CFを生み出すか?」という視点では、無理があります。私は、自宅は、一般的な資産と捉えずに、快適な生活を過ごし、充実した人生を謳歌するためのコストを伴う投資と考えた方が良い気がしています。人生をサポートする資産であり、一定のコストが持続的にかかる点、想定外の追加コストも生じる可能性がある点も念頭に置いておきたいものです。
次回は、「個人的に投資を避けたい金融商品」の予定です。
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